No.39
一人前のアーティスト?
◯…「60歳までに借金を返せたら、一人前のアーティストになっている」-。音更町在住の彫刻家・板東優氏(66)は、約40年前にローマのブロンズ屋に明言された。驚くべきことに60歳の誕生日の一週間前に“出世払い”で貯め込んだ借金を完済できたのだ。
◯…「ズドッ、ドドーン」。けたたましい音とともに、2年間費やした2メートル余りの人体の石こうが崩れ落ちた。時は1982年5月、ローマのアトリエ。帯広の3ロータリークラブの依頼で、帯広百年記念館に寄贈するブロンズ像の型であった。その時、板東氏は29歳。初めての大仕事に有頂天になっていた。引き取りに来たブロンズ屋はむくろと化した作品を前に、「良かった。もう1体造ればいいさ」と言い放った。
◯…10日間、不眠不休、夢中で再興した。ブロンズ屋は「おお! ロダンの作品より良いじゃないか」と。作品は「大地と夢想」のタイトルで、今も百年記念館東側で光彩を放っている。「完全に満足しきった人がいたら、それは落後者だ」(トーマス・エジソン)。板東氏は「成功したことは、すぐ忘れることにしている。次のステップのために」と語る。 (会長主筆・林光繁)