ダイコン生産ピンチ! 十勝 コスト増で撤退相次ぐ 消費低迷で価格転嫁難しく
サンマ豊漁の知らせが届く中、付け合わせとなるダイコンの生産者が十勝管内で減っている。燃料や肥料、農薬などの生産コストが上昇する一方、消費低迷で小売価格は大きく変わらず、利益を得にくくなっているためだ。
10年で35%減
道農政部によると、管内のダイコン作付面積は2022年産で540・8ヘクタールと、過去10年で約35%減少。収穫量は2万3637トンで約42%減った。
JA豊頃町は19年にダイコン事業から撤退した。一時は「十勝ダイコン」のブランド名で屈指の取扱高を誇ったが、生産者の減少とともに選果施設の運営コストが上昇。山口良一組合長は「生食用は相場が最も良かったときでも農家の所得につながらず、“このままでは駄目だ”という結論に至った」と振り返る。JAめむろも2年前にダイコン事業から撤退した。
来年で30周年を迎えるJA幕別町の大根・人参事業部会は、ピークの09年に69戸140ヘクタールで作付けていたが、現状は3分の1の24戸50ヘクタールほどに縮小した。背景には作業負担の大きさもある。ダイコンは収穫適期が短いため、まとまった面積で一気に栽培しづらく、50アールずつなど段階的に作っていく。同JA青果販売2課の谷山光一課長は「本州市場からは『幕別ダイコンを供給し続けてほしい』と強い要望を受けている」とし、生産量維持に腐心する。
一方、管内で作付けトップのJA帯広大正は今季、28戸で約380ヘクタールを手掛けた。ブランド品「大正ダイコン」の安定供給に向けて職員が農家に頼み込んだ結果、10年前に比べて4戸50ヘクタール増えた。
だが農協側は、収穫機の本体価格や部品代も高騰する中、生産者が機械の故障や更新を機にダイコン作りをやめかねない危機感を抱いている。生産販売部の佐藤貴嗣次長は「ダイコンをやめて豆や小麦に切り替えたとしても、切り替えた作物用の施設増強が必要になってくる」と話す。
消費低迷響く
ダイコンの生産には10アール当たり10万円ほどかかり、小売価格が1本170円を下回ると農家に利益は残らないとされる。その一方、業界では「ダイコンは170円を超えると売れなくなる」という天井価格の通説もある。農畜産業振興機構(東京)によると、7月時点の小売価格は東京23区内で1本183円。コロナ禍前の19年時点と比べて25円ほど上がったが、1袋で100円前後値上がりしたニンジンやジャガイモと比べて値動きは鈍い。
価格転嫁が進まないのは消費低迷に理由がある。1人暮らしや高齢者世帯が増える中、ダイコン1本を使い切るのは難しい。漬物離れも要因で、年末の風物詩だった「たくあん」作りに励む家庭も少なくなった。業界ではカット野菜や加工品、スイーツなどを開発することで打開策を見いだそうという声もあるが、特効薬は見つかっていない。(佐藤匡聡)