飼料用米に脚光、「安全」研究結果も
国のコメ政策の見直しを受け、十勝では酪農・畜産での「飼料用米」の活用が広がる可能性が出ている。牛への使用は米の多給で発生する病気を心配する声もあるが、学術機関の研究では他の飼料と同様に使えるという結果があり、国産飼料で付加価値を付けようと実際に使用している農家もいる。販路が確立され、輸入トウモロコシとの価格差が解消されてくれば、活用は広がりそうだ。
主食用米の減産に伴い、飼料用米の生産は増加傾向にある。国は生産量を2011年の18・3万トンから20年に約4倍の70万トンに増やす目標を掲げている。
畜産では養鶏、養豚で飼料用米を使えることが知られているが、乳牛、肉用牛では価格の高さや「アシドーシス」という牛の病気の心配から活用が進んでいなかった。アシドーシスは穀物飼料を大量摂取した場合、牛のルーメン(第1胃)で異常発酵が起きる病気。
帯広畜産大学畜産フィールド科学センター長の日高智教授は、11年度に食肉卸の佐々木畜産(帯広市)の直営牧場と飼料用米使用の共同研究を実施。試験した方法では「肉質は変わらなかった。他の飼料と組み合わせて使えばアシドーシスも起こらない」と話す。
原料米卸のライスフィールド(帯広市、大亀勉社長)は年間約1500トンの飼料用米を道内に出荷している。大亀社長は「トウモロコシでも与え方を間違えればアシドーシスになる。米も砕くなど給餌の仕方で対策は確立されている」と強調する。
普及への課題となる価格差は、市内の飼料会社によると生産者負担で米がトウモロコシの約1・5倍。大亀社長は「主食用より多収の品種が広がり、使う農家が増えれば価格も下がり、十勝でも使っていける。ビタミンEなどの栄養価や肉牛のオレイン酸などおいしさが向上するという研究もある」と話す。
販売面ではコープさっぽろが、国産飼料で付加価値を付けた畜産物として販売に取り組み始めている。
自社で牛乳やヨーグルトも製造・販売する、あすなろファーミング(清水町)の村上牧場は、11年から配合飼料のうち10%で砕いた道産玄米を使っている。同牧場の村上博昭さんは「遺伝子組み換えのトウモロコシを使わずほぼ道産飼料で生産できる。現在の価格は高いが、価格の上下など見通しが利きづらい輸入に比べ安定するのでは」と話す。
円安や世界的な食料の需要増で飼料価格は近年、高騰傾向。道内は牧草や飼料用トウモロコシのサイレージ(発酵飼料)は自給できる半面、畜産に欠かせない配合飼料はほとんどを輸入に頼る中、飼料用米が普及するかが注目される。(眞尾敦)
<コメ政策の転換>
国は主食用米の生産調整(減反)に参加した農家に一律で支払う補助金を来年度から現行の半額の10アール当たり7500円に減額し、18年度には廃止する。主食用の代替作ともなる飼料用米・米粉米はこれまで同8万円を補助していたが、収量が多い品種を作ると乾燥調製費など農家の負担が増えるため、増産につながらない面もあった。今後の「水田フル活用」政策では、収量に応じて最大10アール当たり10万5000円まで補助金を拡大。主食用米の需要減に対応しながら、他の需要のある米を増産することで水田の維持を図る。