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政府の農政改革 十勝から異論も

 安倍晋三政権が進めようとしている大規模な農政改革に対し、十勝の農業関係者からは農業者の所得を倍増させる計画などの実現性を疑問視する声が上がっている。外部の有識者を交えて農政改革を議論している政府の会議は、企業経営者など現在農業を担っている当事者以外を主体に進められており、農業関係者も中心に入れた議論を求める意見も出ている。

 安倍首相は農林水産物の輸出を2020年までに倍増させ、農業・農村の所得も今後10年間で倍増させる方針を打ち出す。十勝地区農協組合長会の有塚利宣会長は所得倍増について「北海道では難しい。零細農家が多い都府県では可能では」と話す。

 道中小企業家同友会とかち支部の尾藤光一農業経営部会長(芽室町畑作)は「所得倍増には十勝なら(単純計算で)現在の倍の5000億円以上の農業産出額が必要になるが、現実的でない」とみる。

 仮に輸出が現在の倍の1兆円となっても、環太平洋連携協定(TPP)に参加して政府の試算通り国内の農業生産が3兆円減少すれば、輸出だけでは埋め合わせできない。

 同支部でシンガポールなどに積極的に農産品の海外輸出も進めている尾藤部会長は「輸出が増えても、所得が倍になることはない。ここ十数年は資材など直接経費も上がり続けている。自然減で農家が減って大規模化し、その分残った農家の所得が増えることはあり得るが、それは国が努力したからではない」と指摘する。

 北海道農民連盟の山田富士雄委員長(全十勝地区農民連盟委員長)は「欧州、米国でも家族農業が中心で、規模拡大で農業を振興しようとはしていない。規模拡大を政策誘導すれば地域が崩壊する。守るべきは田園風景ではなく人」と強調。政府が進める農業への企業参入についても「企業の経済活動ではうまくいかなくなって撤退することもある。その場合に国の基盤である食料生産をどうするのか」と危惧する。

 農政改革が議論されている産業競争力会議(議長・安倍首相)の農業分科会は、農業分野へ参入を進めるコンビニ大手ローソンの新浪剛史社長ら企業関係者が中心。規制改革会議の農業ワーキング・グループも、座長はIT(情報技術)企業の経営者。山田委員長は「企業参入に都合の良い改革になるのでは。本当に国民の食を担うための議論を」と注文する。

 両会議からの提言を受けて新設される、農地の賃貸借による集積を促進する「農地中間管理機構」については、事情が異なる北海道に合った対応を求める声も多い。自身も農家の帯広市農業委員会の木下美智夫会長は「賃貸借よりも売買の促進が必要。私自身も借りている農地があるが、いつまでも借地では負担が消えない」と話す。

 両会議で議論されている農協改革などについて、有塚会長は「本業の農業中心の北海道と(金融中心になっている)都府県は別。それは国も分かっているはず。都府県の農協は大いに自己改革を求められる」としている。(眞尾敦)

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