十勝毎日新聞 電子版

Tokachi Mainichi News Web

受光効率を高め 秋まき小麦を安定して穫る

道総研 中央・十勝・北見農業試験場 生産技術グループ

1.背景と目的
 秋まき小麦は気象要因による収量・品質の変動が大きく、安定生産が求められる。令和2年に「秋まき小麦「きたほなみ」の気象変動に対応した窒素施肥管理」が普及推進事項となったが、道央地域における具体的な窒素追肥体系は示されていない。また、受光態勢の良好な群落を形成するための生育指標は未設定である。そこで「きたほなみ」を対象に、道央地域における気象変動に対応した具体的な窒素追肥体系を示し、道央・道東地域における安定生産に向けた生育指標を設定する。

2.試験の方法
1)道央地域における追肥時期が生育・収量に及ぼす影響
ねらい:道央地域において、起生期から幼穂形成期(以下、幼形期)2週後にかけての追肥時期が、生育・収量・品質・群落の受光態勢に及ぼす影響を明らかにし、具体的な窒素追肥体系を示す。
試験方法:現地圃場にて、播種量200粒/㎡で窒素追肥時期(起生期、幼形期、幼形期前後)を変えて「きたほなみ」を栽培。生育・収量・品質、受光態勢を調査
2)安定生産に向けた生育指標
ねらい:安定生産の目標穂数550~650本/㎡および良好な受光態勢の群落作りに向けた生育指標を設定する。
試験方法:本課題や過去の栽培試験データを用い、目標穂数および受光態勢に関わる形質との関係を検討。

3.成果の概要
1)(1)標準施肥量(現地A、B、C)では、追肥時期が遅いほど穂数は減少し、千粒重やHIは大きくなり、タンパクは高くなる傾向を示した(表1)。試験期間2カ年における登熟期間の日射量は平年並から多めで、起生期追肥体系や多肥で多収となりやすい条件であったが、幼形期追肥の収量は起生期追肥とほぼ同等であった。
  (2)多肥条件(現地D)では、穂数は追肥時期が遅いほど減少したものの、いずれの処理も700本/㎡以上と穂数過多の状態となった(表1)。また、幼形期追肥では減収しており、多量の窒素を追肥時期を遅らせて一度に追肥することは、生育・収量に悪影響を及ぼすことが示唆された。
  (3)追肥時期を遅らせるほど登熟期間中の群落受光態勢に影響する葉面積指数は減少し、葉身傾斜角度は大きくなるなど、受光態勢が向上した(表2)。葉面積は葉身長と有意な正の、葉身傾斜角度は葉身長と有意な負の相関関係にあり、葉身長は幼形期頃の葉色値(SPAD)と正の相関関係にあった(データ略)。このため、追肥時期を遅らせると幼形期頃の葉色値が低下し、葉が短くなることで受光態勢が向上すると考えられた。
  (4)一方で、幼形期よりさらに追肥を遅らせると、追肥後の葉色値上昇が緩慢となり(図)、減収する事例が認められた(表1)。このため、追肥時期を遅らせる晩限は幼形期とする。
  (5)道央地域においても、幼形期重点追肥は穂数過多を抑えながら群落受光態勢を向上でき、収量確保や千粒重増大が見込めるなど、安定生産に有効であった。起生期茎数1000本/㎡以上では起生期を無追肥とし、幼形期に追肥する。1000本/㎡未満では2kg/10aを起生期に追肥、残りを幼形期に追肥する。800本/㎡未満では従来通り(幼形期増肥)とする。起生期2週後~幼形期にかけて葉色値の急激な低下が見られる場合は、その時点で速やかに追肥する。幼形期重点追肥によって起生期追肥よりタンパクがやや上昇するため、高タンパクになりやすい圃場では止葉期以降の追肥を減ずる。
2)(1)現地を含む18年分の栽培試験から、安定生産の目標穂数550~650本/㎡に向けた起生期茎数は、道央で1000~1400本/㎡、道東で1000~1500本/㎡が適当と見積もられた(データ略)。安定生産に向けた各生育期節の生育指標(表3)を満たすことで、目標穂数を達成しやすくなる。
  (2)両地域の播種適期晩限において、現行の播種量140粒/㎡では起生期茎数1000本/㎡を下回ると試算された。起生期1000本/㎡の達成に向け、播種適期晩限の播種量上限を170粒/㎡(出芽率90%)とする。
  (3)穂1本あたりの葉面積は上位3葉の平均葉身傾斜角度と相関があり(データ略)、開花期~乳熟期における群落の受光態勢は穂1本あたりの葉面積および葉面積指数から概ね把握できる。開花期~乳熟期の受光態勢に関わる生育指標(表3)により、栽培管理上の改善点を見いだせる。

4.留意点
1)「きたほなみ」の安定生産に向けた穂数管理と受光態勢向上への対策技術として活用する。

【用語説明】
葉面積指数 :1㎡に存在する葉面積を積算した値。本成果では上位3葉までを対象とした。
葉身傾斜角度:葉身の水平からの傾斜角度。90°に近いほど葉が直立し、受光態勢が向上する。


詳しい内容については、次にお問い合わせください。
道総研中央農業試験場 生産技術グループ
電話(0123)89-2001 E-mail:central-agri@hro.or.jp

更新情報

20年後の自分と再会 浦幌小学校でタイムカプセル開封

紙面イメージ

紙面イメージ

11.27(水)の紙面

ダウンロード一括(99MB) WEBビューア新機能・操作性UP

日別記事一覧

十勝の市町村

Facebookページ

記事アクセスランキング

  • 昨日
  • 週間
  • 月間

十勝毎日新聞電子版HOME