改良効率アップ!受精卵で黒毛和牛の遺伝的能力評価
道総研畜産試験場 基盤研究部 生物工学グループ
家畜研究部 肉牛グループ
1.試験のねらい
黒毛和牛の改良では、DNA上の遺伝子型情報から算出されるゲノム育種価*1を用いて牛の能力を直接評価するゲノム選抜技術が活用されている。現状、ゲノム育種価は子牛の段階で算出されるが、受精卵の段階でゲノム育種価を算出し、受精卵移植により高能力牛を選択的に生産することができれば、極めて効率的な改良が可能となる。そこで、黒毛和牛における受精卵ゲノム選抜技術を開発する。
2.試験の方法
(1)受精卵から切断採取した細胞由来DNAを用いて、正確に遺伝子型解析および産肉能力(枝肉重量や脂肪交雑など)のゲノム育種価を評価する手法を確立する。
(2)計208個の黒毛和牛受精卵について、1)で確立した手法により遺伝子型解析および産肉能力のゲノム育種価評価を行い、残りの受精卵は凍結保存する。ゲノム育種価評価を実施した凍結受精卵の移植後の受胎率等を調べ、受精卵ゲノム選抜技術の実用性を検証する。また、受精卵ゲノム選抜技術を活用した種雄牛造成および繁殖雌牛改良法を示す。
3.成果の概要
(1)受精卵から約15細胞を切断採取してDNAを抽出し、DNAの増幅後に遺伝子型解析を行った場合の遺伝子型判定率は98.1±0.3%と高い値であった(表1)。受精卵段階で算出したゲノム育種価と残りの受精卵を移植して産まれた子牛のゲノム育種価はほぼ一致していた。以上より、受精卵段階で精度の高い遺伝子型解析および産肉能力のゲノム育種価評価ができることを示した。
(2)計208個の受精卵のうち、184個(88.5%)の受精卵でゲノム育種価を算出できた。ゲノム育種価評価を実施した凍結受精卵の移植後の受胎率は41.9%(13/31頭)であり、実用水準にあった。受精卵段階で算出したゲノム育種価と子牛のゲノム育種価は概ね一致していた(図1)。さらに、父および母が同一の受精卵(全きょうだい受精卵、A、B)のゲノム育種価にばらつきが認められ、受精卵段階で全きょうだいの産肉能力の遺伝的能力の違いを見分けることができた(図2)。以上より、黒毛和牛における受精卵ゲノム選抜技術の実用性を示した。
(3)優良種雄牛と優良ドナー牛を組み合わせて採卵し、ゲノム育種価評価と性判別を行い、高ゲノム育種価雄卵を選択的に移植することで、種雄候補牛の遺伝的能力を効果的に高めることができ、優良種雄牛の作出効率を高めることができる。高ゲノム育種価雌卵は、次世代の種畜造成用のドナー牛や繁殖雌牛として活用することで、道内繁殖雌牛群の改良や種雄牛造成を促進できる(図3)。
4.留意点
(1)本技術の活用には受精卵から細胞採取するためのマイクロマニピュレーター等の設備と技術を必要とする。
(2)DNAの増幅は、1細胞からDNAの増幅が可能とされる市販のキットを用いて実施した。
<用語解説>
*1ゲノム育種価:遺伝子型のデータと枝肉成績のデータから算出した牛の能力値のこと。
詳しい内容については、次にお問い合わせ下さい。
道総研畜産試験場 基盤研究部 生物工学グループ 藤井 貴志
電話(0156)64-0617 FAX(0156)64-3484
E-mail fujii-takashi@hro.or.jp