十勝毎日新聞 電子版

Tokachi Mainichi News Web

環境に優しい農業 十勝から 「持続可能な農業経営」座談会

 国連が提唱する「持続可能な開発目標(SDGs)」や農林水産省が昨年打ち出した「みどりの食料システム戦略」(みどり戦略)など、農業経営に環境負荷低減の対応がこれまで以上に求められる時代になった。十勝農業は、日本を代表する食料生産基地だが、今後も十勝がその役割を果たしていくには持続可能な営農への視点が欠かせない。環境に優しい農業を実践する生産者と研究者に、現状や課題を語ってもらった。
(司会・十勝毎日新聞社編集局長 高久佳也)

◆いずみ農園(帯広市)農園長 泉広由樹氏(45)
◆ありがとう牧場(足寄町)代表 吉川友二氏(57)
◆道総研十勝農業試験場生産技術グループ研究主幹 相馬潤氏(55)

化学肥料から国内資材へ 泉氏
 司会 環境に優しい農業が注目を集めています。

吉川友二氏

 吉川 農業は、環境負荷を掛けることもあれば、環境を守ることもできる仕事だと思う。酪農は、牛のげっぷに含まれるメタンガスが温室効果があるなど問題になっている。負荷を減らすには、飼育頭数を減らすこと。そしてストレスを掛けずに長生きさせ、出産の回数を増やす。それには放牧が適している。

 2016年にニュージーランド酪農を視察したが、既に培養肉との競合や(家畜にとって快適な飼養環境を目指す)アニマルウェルフェアについて話をしていて、先進的だと感じた。

泉広由樹氏

  化学肥料を使う以前は、どこも経営面積や機械も少なく家族経営をしていた。祖父の代に出てきた化学肥料によって収量が増えて、それは“魔法の薬”だった。しかし、頼りすぎると土の腐植や微生物の状況が崩れ、農薬がないと収量が確保できなくなってきた。一方、化学肥料は価格が上がり海外情勢で手に入りにくい。鶏ふんや堆肥など、なるべく国内で調達できるものを使う、持続可能型の農業への関心は高まっている。

 3月に十勝総合振興局などとオーガニック研究会を立ち上げたが、多くの若い農家が参加してくれた。JA帯広かわにしの青年部からも話を聞きたいと言われた。何かアドバイスできればいいと思っている。

 相馬 農業試験場の役割は、いかに生産量を増やすかが研究のベースにあった。しかし、それだけでは土地本来の生産力が損なわれていく。道では、収量や品質を落とさずに、化学肥料や農薬を必要最小限にしていく「クリーン農業」を30年来進めてきた。みどり戦略やカーボンニュートラルの動きなどが農業でも大きな目標になっている。

 研究者の中では、作物や病気の状況に応じて、最小限の化学肥料や農薬をどう効果的に使うか、組み立て方や使い方の判断を助ける研究が行われている。

国産飼料で輸送燃料削減 吉川氏
 司会 農業が環境負荷低減、温暖化防止にできることは。

 吉川 酪農では、配合飼料を海外から輸入する過程にも、化石燃料を使って温室効果ガスが出る。私は道産のビートパルプや子実コーンを与えているが、国産飼料を使えば環境負荷は減り、国内の経済循環にもなる。これらは放牧でなくても取り入れられるものだと思う。

 ふん尿処理のバイオガスプラントは、集合型で遠くの牧場からの輸送距離が長いなら化石燃料を消費するので、計画や集約度次第になる。私は、飼育頭数を減らして、出たふん尿は畑の土に戻して循環させた方がいいと考えている。

 司会 国も推進する有機農業だが、高い栽培技術が必要な印象がある。

  年によって波があり、手作業が多いものの確実に取れる訳ではなかった。一緒にいろいろな所へ行って勉強してきた。土の中の微生物が豊かなことが大事で、根の張り方も違ってくる。作物を健康に育てることで収量も安定してきた。掛けた愛情に対して、作物が応えてきてくれると年々感じるようになっている。

 課題は除草で、手作業になるのでトラクターの何倍もの時間がかかり、人手を確保する必要がある。共済制度などの補償がないのも課題。ただ、ニンジンやタマネギなど一般的には除草剤が必要な作物ほど、有機のものが消費者から求められる。楽ではないがやりがいは大きい。

実践を日本の共有財産に 相馬氏
 司会 課題克服に向けた技術開発の状況は。

相馬潤氏

 相馬 農薬を使わない防除法は、例えば夜間の畑に黄色発光ダイオード(LED)を照らして夜行性の害虫の動きを抑える試みや、紫外線を使ったうどんこ病の防除、コウモリが出すのと同じ超音波を使った害虫対策などがある。どうやって一般化するかだが、泉さんの話を聞いて有機農業の実践の中にそのヒントが含まれているのではと思った。

 司会 環境に優しい農業を十勝でどう取り入れていったら良いか。

  十勝は農業基地として生産量は確保できているが、栄養価はどうなのか。一軒一軒の農家が農薬や化学肥料を減らし、少しずつ有機質の肥料を増やしていけば、十勝全体が変わっていく。国も環境保全型農業に補助金を出しているので、うまく活用してほしい。世界的にオーガニックが普及する中で、単なる流行ではなく栄養価が注目されて広がっていけばいい。

 吉川 自然の力を最大限に引き出す農業を目指す。足寄町にも遊休地がある。活用することで温暖化防止につながり、農家の経営改善にもつながる。環境に優しい農業を進めて、都市部の人とタッグを組んで信頼関係を築きながら、持続可能な農業をしていかなければいけない。

 相馬 十勝農業は日本、北海道の中で飛び抜けたトップの存在。その役割とは、生産することだけでなく、持続していくこと自体が日本にとっての共有財産なのでは。現在の農業で大成功しているが、そこが持続可能な農業に取り組めば、他の地域にとって大きなインパクトになる。日本や世界にとっても十勝が取り組む意義は大きいと思う。

更新情報

帯広市まちづくりデザイン賞、最優秀賞に「W/(ウィズ)」

紙面イメージ

紙面イメージ

11.26(火)の紙面

ダウンロード一括(81MB) WEBビューア新機能・操作性UP

日別記事一覧

前の月 2024年11月
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

十勝の市町村

Facebookページ

記事アクセスランキング

  • 昨日
  • 週間
  • 月間

十勝毎日新聞電子版HOME