本当はこんなに大きくなる道産にんにく!
新検査法と防虫ネットでウイルスから守る
道総研 花・野菜技術センター 研究部 生産技術グループ
道総研 上川農業試験場 研究部 生産技術グループ
北海道大学大学院 農学研究院
ホクサン株式会社
1.背景と目的
北海道のにんにく栽培は輸入量の減少と国内需要の増加から生産増加に向けた動きが強まっている。しかし、道内では自家種苗による生産のため、種々のウイルスに感染しており、生産拡大の阻害要因となっている。その対策にはウイルスフリー種苗利用が最も効果的で、ウイルスフリーをチェックするための高精度なウイルス検査法やウイルスフリー種苗の再感染回避技術の確立が不可欠である。
そこで、ウイルスフリー種苗の増殖体制の構築に不可欠なウイルス検査法と再感染回避技術を確立する。
2.試験の方法
1)にんにくのウイルス発生実態調査
2)高精度かつ迅速なウイルス検査法の開発と実用化
3)効率的なウイルスフリー種苗生産のためのウイルス再感染回避技術の確立
3.成果の概要
1)道内にんにくの主要栽培地(17市町村、のべ54圃場)では、概ね全ての圃場でウイルスによる全面的なモザイク等の症状の発生が認められ、確認されたウイルスはアブラムシ媒介の既知のリーキ黄色条斑ウイルス(LYSV)とタマネギ萎縮ウイルス(OYDV)に加え、チューリップサビダニ媒介の道内未確認であるallexivirusであった(表1)。以上の2種と1属のウイルスが道内のにんにく栽培において重要と考えられた。道内未確認であるチューリップサビダニについては、その発生を確認できなかったが、今後も同害虫が寄生した種苗の移入等により侵入するリスクは高く、警戒が必要と考えられた。
2)LYSV、OYDV、allexivirusの同時検出可能なFITC Detection before Array(FDA)法による2種と1属の同時検出法を確立した。その検出感度は、一次判定では抽出RNAの102~103希釈まで検出可能で、二次判定ではさらに10倍感度が高い。RT-PCR法に比較すると、LYSVとOYDVについては10倍~103倍程度高く、allexivirus は同等であった。RNA 抽出を含む判定時間は3~4 時間(一次判定)から最長24 時間(二次判定を含む)と短い(図1)。FITC 法による一次判定で擬陽性の場合は、二次判定を実施する。一次判定までは持ち運び可能なPCR 機器の導入により自動車内での野外診断も可能である。一次判定キット(抽出用カラム・試薬とFITC-RT-PCR 試薬)のコストは1点約500円(実費)と安価である。本方法の検出時期は5月(生育期)が適し、7月(収穫期)は感度が低い。サンプリングは、最上位展開葉の一枚下の葉が比較的感度が高く、他の葉位や培養苗からの検出も可能である。
3)防虫ネット(目合0.8mm)の融雪後からの被覆処理は、農繁期後の6月初めからの被覆よりもウイルス感染率を低く抑制し、無被覆と比較すると86%以上ウイルス感染率を低下させた(図2)。防虫ネットによる被覆栽培は、アブラムシ媒介性ウイルスの再感染対策として効果が高い。また、有翅アブラムシの飛来は5月下旬から11月上旬まで見られ、10~11月に設置したウイルスフリー株のトラップでウイルス感染が認められたことから(データ略)、秋に萌芽するホワイト種では、播種後から11月上旬頃まで防虫ネットによる被覆(降雪前に撤去)する必要があると考えられた。
4)本成果の導入によるウイルスフリー種苗を使用することで一球重は5割増となることから、飛躍的な収量性向上が見込まれ(図3)、ピンク種では種苗として利用可能な総苞重の増加も期待できる(感染株比139%(R2年):データ略)。
4.留意点
1)FDA法は、にんにくのウイルスフリー化事業者および種苗生産団体(JA・農業生産法人)によるウイルスフリー種苗のウイルス検査に活用する。
一次判定用キットはホクサン(株)より販売予定である。二次判定用マクロアレイはホクサン(株)より受注生産、もしくは同社による二次判定の受託診断を実施する予定である。
2)防虫ネットによる被覆栽培は、目合いが0.8mm目の防虫ネットを使用し、種苗生産団体(JA・農業生産法人)によるウイルスフリー種苗の生産および生産者による種苗の増殖にウイルス再感染対策として活用する。
【用語解説】
・FITC Detection before Array(FDA)法:蛍光標識(FITC)プライマーとマクロアレイ用ビオチン標識プライマーにより、RT-PCR法で得た増幅産物を電気泳動で蛍光により一次判定、擬陽性(泳動像が不鮮明など陽性・陰性の判定に迷うケース)の場合には、残りの増幅産物をマクロアレイでビオチン標識により二次判定を実施する。
・ホワイト種:福地ホワイト系など。秋に播種後、萌芽・生育した状態で越冬。珠芽は利用しない。
・ピンク種:北海道在来系。秋に播種、越冬後に萌芽。総苞内の珠芽は一部で種苗に利用されている。
詳しい内容については、次にお問い合わせ下さい。
道総研 花・野菜技術センター 生産技術グループ
電話(0125) 28-2800 E-mail:hanayasai-agri@hro.or.jp
- カテゴリ農業
- タグ最新農業情報2023