搾油粕を飼料に使える!なたね新品種「ペノカのしずく」
農研機構 北海道農業研究センター 寒地畑作研究領域 畑作物育種グループ
1.背景
北海道の主力品種である「キザキノナタネ」は収量性や含油率が高く、低エルシン酸(シングルロー)品種である。一方で、キャノーラ油あるいはサラダ油の原料等として輸入されている海外産品種は、低エルシン酸に加えてグルコシノレート含量が低い、いわゆるダブルローの特性を有する。ダブルローなたねの搾油粕は、家畜に有害なグルコシノレート含量が低く、タンパク質飼料としても利用価値が高い。「キザキノナタネ」の搾油粕は、グルコシノレート含量が高いため家畜飼料としての利用が難しく、飼料に比べて需要が少ない有機質肥料としての利用に限られている。また、近年は輸入大豆粕等の飼料原料価格の高騰が深刻化し、搾油粕を自給タンパク質飼料として利用できるダブルロー品種栽培へのニーズが高まっている。
2.育成経過
「ペノカのしずく」は寒地および寒冷地に適したダブルローなたね品種の開発を目標として、農研機構東北農業研究センターにおいて、平成23年度に中晩生で多収のダブルロー系統「OZ028-2」を種子親、中晩生の寒地および寒冷地における低エルシン酸の普及品種「キザキノナタネ」を花粉親として人工交配を行い育成された。平成29年度より東北農業研究センターにおける生産力検定試験、北海道農業研究センター芽室研究拠点における系統適応性試験等に供試し、収量性は「キザキノナタネ」と同程度であり、ダブルロー(低エルシン酸かつ低グルコシノレート)の特性が認められた。令和2年に品種登録出願し、令和4年に品種登録された。
3.特性の概要
1)抽苔期・開花期は「キザキノナタネ」より数日遅く、成熟期は「キザキノナタネ」より数日早い。春播き抽苔性は「キザキノナタネ」より弱く、春播きには適さない。寒雪害抵抗性や菌核病発生程度は「キザキノナタネ」と同程度である。
2)草丈は「キザキノナタネ」より少し高く、倒伏程度がやや高い。分枝数は「キザキノナタネ」よりやや多く、穂長は「キザキノナタネ」より短い。花弁の主な色は“黄”である。
3)子実重は「キザキノナタネ」と同程度に優れる。千粒重は「キザキノナタネ」よりもやや軽い。
4)含油率は「キザキノナタネ」と同程度である。種子のエルシン酸含量は「キザキノナタネ」と同様に極微量であり、カナダのダブルローナタネ“Canola”の基準値(2%以下)を満たす。また、搾油粕中のグルコシノレート含量が低く、カナダのダブルローナタネ“Canola”の基準値(30 µmol/g未満)を満たす。
4.普及態度
「ペノカのしずく」はグルコシノレート含量が低いため、搾油粕を高タンパクな国産飼料として利用できる。「ペノカのしずく」を「キザキノナタネ」と置き換えることにより、北海道産なたねの付加価値を高め、北海道のなたね栽培の振興に寄与するとともに、国産濃厚飼料の供給の一助となる。
1)普及見込み地帯:北海道のなたね栽培地域
2)普及見込み面積:1,000 ha
3)栽培上の注意
(1)他のなたね品種およびアブラナ科植物と交雑するので、十分に隔離された採種圃場で種子を増殖する。
(2)一般栽培では、採種圃由来の種子を使用し、アブラナ科植物から十分隔離して栽培する。
【用語の説明】
エルシン酸:過剰摂取により心臓などに障害を引き起こすことが報告されている脂肪酸
グルコシノレート:搾油粕に含まれ、家畜が摂取すると甲状腺肥大を引き起こすことが報告されている成分
詳しい内容については、次にお問い合わせ下さい。
農研機構北海道農業研究センター 研究推進部 研究推進室
同 寒地畑作研究領域 畑作物育種グループ
電話:011-857-9260 E-mail:cryoforum@ml.affrc.go.jp
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