春山なお残雪、今年すでに遭難8件「山をなめてはいけない」
帯広にも桜開花の便りが届き春を感じる中、登山愛好家たちにとっては、待望の登山シーズンが近づく。一方で昨冬は清水町内のペケレベツ岳でバックカントリースキー中の60代男性が雪崩に巻き込まれて死亡、広尾町の野塚岳でも救助要請が相次ぎ、山の事故が目立っている。(近藤周)
道警によると、管内の2022年の山岳遭難発生件数(山菜採り除く)は20件。過去5年で最も多かった18年に並んだ。十勝山岳連盟の斉藤邦明さん(72)によると「大雪、阿寒の国立公園と国立公園化を目指す日高に囲まれた十勝は、ここ数年で登山家人気が上昇している」といい、コロナで減少した登山者やバックカントリースキーヤーも戻りつつある中で、遭難件数の増加を憂慮する。
スキーや山菜 冬装備、クマ対策も
5月でも標高1000メートル以上ではまだ雪深い道内の山々だが、残雪を好んで4月末から山に入る人も少なくない。十勝では白雲山(鹿追・士幌)やオダッシュ山(新得)など比較的、難度が低い山でも「雪山を登る場合はアイゼンを着用し、ピッケルも装備して」(斉藤さん)と話す。また、ナイロン製の登山用衣服は、締まった残雪で「非常に滑りやすい」ため注意が必要だ。
管内の山では今年1~3月の3カ月間で8件の遭難事案が発生。このうち2人が死亡、4人がけがをしており、昨年同時期と比べて速いペースで発生している。斉藤さんはゴールデンウイーク中の登山やシーズン最後となるバックカントリースキー、山菜採りでの遭難に注意を呼び掛ける。さらに「冬眠明けのクマにも要注意。遠くまで居場所を知らせることができる笛の携帯を」と話している。
単独より信頼ある人と
帯広署の山岳遭難救助隊員、岡元将馬巡査部長は2月に野塚岳、3月にペケレベツ岳の救助に出動した。隊員でも命の危険を感じる現場を振り返り「山をなめ過ぎている」登山者の増加に危機感を覚える。
救助隊はヘリコプターでの救出が難しい場合に、麓から救助に向かう。隊員が背負う装備は重さ約20キロ。ビーコン(雪崩トランシーバー)やGPSはもちろんのこと、スコップや山中泊になった場合の寝袋など約30点に及ぶ。
同署には3人の山岳遭難救助隊員がいるが、それぞれ普段は他の業務に当たっている。
岡元さんも普段は大正駐在所の駐在員で、救助要請が入った場合は近隣駐在所などにカバーを頼み、出動する。「救助隊も常に待機しているわけではないため、呼べばすぐに助けが来ると安易に考えないでほしい」と話す。
岡元さんが特に気になっているのが、単独登山者の増加だ。けがをしたり、雪崩に巻き込また場合、「1人では助かる命も助けられない」。近年はSNSなどを通じて出会った初対面の仲間と登山に行く人もいるが「もしもの時に命を守り、守られるような信頼関係がある人と行ってほしい」と呼び掛ける。
また、遭難の早期認知のためにも最寄りの警察署への登山計画書の提出や、車を麓に止める場合はボンネットにメモ書きを残すなどの工夫も行ってほしいと話している。