マチの魚屋ここに在り 鮮魚店10年で2割減も質とサービスで勝負
対面販売で魚の旬や産地、おいしい食べ方を消費者に伝えてきた鮮魚店。帯広の老舗鮮魚店「浜谷商店」が1月に閉店するなど、いわゆる「マチの魚屋さん」が十勝でも減っている。消費者の魚離れに加え、切り身や刺し身が手軽に購入できるスーパーの存在など、取り巻く環境は厳しさを増すが、鮮魚店ならではのサービスも提供し、生き残りを懸けている。(高井翔太、松岡秀宜)
2018年に開店した帯広市内の「魚道(うおみち)」(西16南4)では、干物、刺し身、漬け魚を柱に営業する。能本愽道代表(53)は、「スーパーには置いていない『ちょっといいものの品ぞろえ』で勝負している」と胸を張る。
干物は、冷風干物乾燥機を用いて仕上げる。時間が短縮でき、ムラなく作れる長所があり、能本代表は「(スーパーの魚と)食べ比べても、こちらがおいしい」と絶対の自信を持つ。漬け魚も「スピード勝負」で加工するなどし、差別化を図る。
市中心部に店を構える「鮮魚ますだ」(西1南10)は、増田憲男さん(75)と妻洋子さん(73)、長男孝規さん(49)で切り盛り。1999年の開業から「『昔ながらの鮮魚店』として変わらないこと」で消費者の信頼を得ている。
店の一番の自慢はやはり「客が必要とする品ぞろえ」(孝規さん)だ。この時期はサクラマス、夏はトキシラズなど、季節で全く異なる魚種が並ぶ。店内に値札は無い。「お客さんには価格で判断するのではなく、欲しいものを買っていただきたい」(同)との信念からだ。
帯広保健所によると、今年2月現在の魚介類販売業許可件数は計151件。10年前に比べ46件、2割以上減っている。許可件数にはスーパーも含まれるため、減少分は鮮魚店と考えられるという。
同所は減少要因は「一概には言えないが」と前置きした上で、「消費者の魚離れや、コロナ禍による販路の減少なども挙げられるのでは」とする。
「魚道」の能本代表は鮮魚店の減少要因を、「働き手の高齢化もあるのでは」と推察する。また、「鮮魚ますだ」の増田孝規さんは「変わろう」として失敗した同業者を、いくつも見てきたという。「安価で便利さを求める人に向けて店の方針を変えてしまうと、『魚屋じゃないとだめ』という人が離れてしまう」
バランスの取れた伝統的な食文化の和食。その代表格が魚食だ。消費者の調理方法に合わせ、下処理などのサービスも提供し、魚食を長年支えてきた「マチの魚屋さん」。築いてきた顧客との信頼関係を大切にしながら、魚離れを防ぐとりでとなっている。