国内初、家畜ふん尿から液化バイオメタン
産業ガス大手のエア・ウォーター(本社大阪市)などが、国内で初めて家畜ふん尿由来の液化バイオメタン(LBM)を製造し、工場の燃料として活用する一連の実証事業を十勝管内で進めている。畜産現場の課題解決や脱炭素化社会の推進につながる、新たな地産地消エネルギーとして2023年度中の事業化を目指す。大樹町で打ち上げるロケット燃料などへの供給を見込んでいる。
大樹町内の酪農家2軒のバイオガスプラントで、家畜ふん尿の発酵時に発生するガスを専用のローリー車で捕集。ガス中に含まれるメタンを抽出、液化して高純度のLBMを精製し、液化天然ガス(LNG)を使う工場や運送会社で新たな燃料としての品質評価を行う。
環境省の補助を受けた2年間の実証事業で、エア・ウォーターのLPガス拠点(帯広市西22南1)に新設したプラントでLBMを製造。17日からよつ葉乳業十勝主管工場(音更町)でボイラー熱源として使い始め、18日に報道公開された。
同工場では今月中に約15トンの供給を受け、LNGに代わり試用する。池浦二郎工場長は「今の段階では安定した燃焼を続けている。採用すれば脱炭素化に貢献できる」と語った。
十勝をはじめ道内の畜産現場では、規模拡大で増える家畜ふん尿の処理費用や労働力などが課題。ふん尿を資源として適正処理できるバイオガスプラントは、発生したガスで発電できるが、送電網の空き容量が少なく新規の売電が限られている。実証事業に協力する水下ファーム(大樹町石坂)の水下英治社長は「電力だけでなく、ガスとしても地産地消できる」と期待する。
LBMは既存設備で使用できるものの、LNGに比べて高い製造コストが課題。販売価格の見通しはこれからだが、LNGと混合した活用や環境負荷の低いエネルギーとして付加価値を高めた販売を検討していく。まずは大樹町内で開発が進む液体燃料ロケットへの供給を見込んでいる。
エア・ウォーター北海道の加藤保宣社長は「私たちの技術で1次産業の課題が解決できればいい。地域循環エネルギーとして事業が成り立つよう取り組みたい」と話していた。(安田義教)
家畜ふん尿や食品残さなどの発酵時に出る再生可能エネルギーのバイオガスから、メタンと二酸化炭素を分離し、メタンを液化させたもの。液化すると体積が小さくなり大量輸送できる。一般的な液化天然ガス(LNG)の9割程度の熱量を持つ。