南極観測隊で同行した樺太犬「タロ」の毛 帯畜大で保管
日本の第1次南極地域観測隊に同行し、昭和基地に置き去りにされ、その後生存が確認された樺太犬「タロ」の毛の一部が、帯広畜産大学の野生動物の標本室で保管されている。タロと接点があった芳賀良一元教授(故人)が持ち込んだものだが、詳しい経緯は明らかではない。柳川久副学長は「動物に興味を持ってもらうツールの一つとして有効に活用していきたい」と話している。
芳賀元教授は、第1次観測隊(1956~58年)が派遣される際、移動で使用する犬そり隊の編成と訓練に携わった。自身も第4次夏隊員として昭和基地に滞在し、タロと再会した。61年に帯広畜産大の生物学教員として赴任。野生動物管理学研究室を立ち上げる際、新設した標本室に死んだタロの毛や骨の一部を収めた。他にも昭和基地で捕獲されたカニクイアザラシやウェッデルアザラシの骨格などを保管している。
タロは第1次南極地域観測隊と昭和基地へ。58年に南極に取り残されながら、兄弟犬「ジロ」とともに1年間、生き延びたことで知られる。南極から戻った後は、北大植物園で過ごした。70年に死に、はく製にされて北大博物館に保存されている。ジロは60年、日本に帰らぬまま昭和基地で死んだ。はく製は国立科学博物館(東京)に収蔵されている。
標本室のタロの毛は、ビニール袋に収められ、約30センチ四方の段ボールに梱包(こんぽう)されている。袋の中に押し込むようにして、油が残った毛と一緒に、「樺太犬タロの被毛 死亡後はく製々作の時に抜けたもの」と書かれた芳賀元教授直筆のメモが入っていた。同研究室の教授だった柳川久副学長は「当時芳賀先生は畜大にいたが、育ての親として北大での解剖やはく製作りに立ち会ったのではないか」と推測する。
骨は北大に寄贈し、毛だけが残った。柳川副学長は「返し忘れたのか、毛だけは取っておこうという気持ちがあったのかは分からない」と話す。
死後、半世紀以上がたった今でも少数の教員と学生しか存在を知らずに保管され続けてきた。柳川副学長は「歴史的価値があり、大学の宝にもなり得る」と活用法を検討している。
(塩原真)