高齢化で第三者へ移譲 更別、サクセスファーム
【更別】経営者の高齢化で引退廃業の危機があった酪農業の有限会社「サクセス・ファーム」(村更南342)に、岩手県で酪農業を営んでいた池田有樹さん(52)が経営を引き継ぐため一家で移住してきた。離農跡地に入るのではなく、第三者へ移譲継承するまれなケースで、前代表の宿田成宏さん(82)は「やる気ある若い人に出会えて良かった」と喜んでいる。
宿田さんは1970年に苫小牧市から来た新規就農者。3人の子供に恵まれたが後継者はいなかった。しかし「農場の火は絶やさない」と廃業ではなく第三者に譲る道を考え、2002年に法人化した。
大阪府出身の池田さんは麻布大獣医学部環境畜産学科を卒業後、北根室地区北海道農業改良普及センター(根室管内中標津町)勤務などを経て、20年ほど前に岩手県西和賀町で新規就農の夢をかなえた。約30頭の乳牛を飼養し、経営は順調だった。
しかし、13年の年末に体調を崩して体力的に限界を感じ、将来的に雇用も見込める北海道での効率良い酪農を夢見るようになった。その後、知人の酪農コンサルタントを通じて後継者を探す宿田さんを知った。
ただ、4人の子供がいる池田さんにとって、一家での引っ越しは簡単な選択ではなかった。岩手は一から信頼を築き上げた大事な場所。「振り出しに戻って挑戦するか」。最終的には、高校の編入試験を受けることになる次女笑子さん(16)=1年=の「行ってもいいよ」の一言で家族は結束。困難を乗り越え、帯広三条高に合格した。
長女の歩乃子さん(20)は帯広畜産大(畜産科学部家畜科学課程3年)に通っていて十勝に縁もあり、「家族そろって生活できることがうれしい。地域から少しずつ信頼を集めることができたら」と話す。
一家は昨年12月から同ファーム敷地内に居を構え、笑子さんは午前7時発のバスで高校へ、次男の雄亮君(11)=5年=は更別小学校へ通っている。2週間ほど前には長男の慣作さん(18)も岩手から来て、家族全員がそろった。
搾乳牛100頭、育成牛100頭という初めての規模・形態に奮闘する池田さんを妻の亜喜子さん(47)はじめ、家族全員が支える。池田さんは「設立者の意志を引き継ぎ、次の世代へつないでいくことが村への貢献にもなるはず」と力を込める。
昨年度は道内で約200戸、管内でも約50戸の酪農家が搾乳中止・離農を余儀なくされた。家族経営の枠を超えて引き継いだ池田さん一家のケースは、地域を守る新たな形態として注目されそうだ。(小寺泰介)