クリーン農業は温室効果ガス排出量も少ない
道総研 十勝農業試験場 研究部 生産技術グループ
1.背景と目的
秋まき小麦-てんさいの作付けパターンは窒素投入量が多いタイミングであり、温室効果ガス(GHG)の一つである一酸化二窒素(N2O)の排出を促進する恐れがある。クリーン農業技術である適切な堆肥施用を活用した窒素減肥はN2O の排出抑制が期待できる。また、クリーン農業による堆肥施用が二酸化炭素(CO2)やメタン(CH4)を含むGHG 排出の全体量に及ぼす影響は明らかではなく、適切な肥培管理による温室効果ガスの排出抑制効果の提示が求められている。
2.試験の方法
1)クリーン農業による畑地からのGHG(N2O、CO2、CH4)の排出抑制効果の検証
異なる窒素施肥量・堆肥施用量で各GHG 排出量を測定し、クリーン農業によるGHG 排出抑制効果を明らかにする。
試験地:十勝農試内秋まき小麦およびてんさい作付圃場(淡色アロフェン質黒ボク土)
試験処理 :無窒素区、慣行施肥区(施肥量は北海道施肥ガイドに準拠、堆肥無施用)、クリーン農業区(牛ふん麦稈堆肥3 t/10a 施用、化学肥料3 kgN/10a 減肥)、堆肥多施用区(クリーン農業区に堆肥6 t/10a を上積み)
調査項目:N2O、CO2、CH4の各排出量(チャンバー法)、作物収量・品質等
2)YES ! clean 登録集団の畑作・露地野菜畑におけるGHG 排出の削減量の試算
試算方法 :堆肥を施用せず慣行レベルの窒素施肥を行った場合から、YES ! clean 登録集団の畑作・露地野菜畑において堆肥3 t/10a の施用と窒素減肥を導入した場合の正味GHG 排出の削減量を試算した。
3.成果の概要
1)秋まき小麦作付圃場のN2O 排出量(3ヵ年平均)は幼穂形成期追肥を窒素減肥したクリーン農業区で慣行施肥区より低下した。一方、堆肥多施用区のN2O 排出量は慣行施肥区より高い傾向にあった。この傾向はてんさい作付圃場のN2O 排出量も同様であった(表1)。
2)いずれの作付でも堆肥由来のN2O 排出係数(化学肥料由来の窒素施肥量あるいは堆肥由来の窒素施用量あたりのN2O 排出量の割合)は化学肥料由来より低かった(表2)。
3)秋まき小麦・てんさい作付圃場のいずれもCO2排出量は慣行施肥区よりクリーン農業区で高い傾向であった。しかし、両区の差(24~140 kgC/10a)はクリーン農業区の堆肥施用による炭素投入量(年間238kgC/10a)で十分相殺でき、投入された炭素の平均73% が土壌中に貯留された。CH4排出はいずれの処理区からもほとんど検出されなかった。
4)堆肥施用に伴う炭素貯留を考慮した秋まき小麦、てんさい作付圃場におけるクリーン農業区の正味GHG排出量(3ヵ年平均)は慣行施肥区比(100)でそれぞれ54、10に抑制された(図1)。
5)YES ! clean の登録集団の畑作・露地野菜畑において堆肥3 t/10a の施用と窒素減肥を導入した場合、堆肥を施用せず慣行レベルの窒素施肥を行った場合と比べて、正味GHG 排出量は面積あたりで年間0.64~0.75 tCO2-eq/10a 減、総量で年間2.5~2.7万tCO2-eq 減と試算された(H28~R 2年の平均、表3)。
6)以上から、畑作・露地野菜畑において堆肥3 t/10a の施用と窒素減肥の組み合わせは温室効果ガスの排出抑制に寄与できる。
4.留意点
本成果は十勝農試圃場(淡色アロフェン質黒ボク土)において牛ふん麦稈堆肥3 t/10a の施用と窒素減肥に基づく試験結果から得られたものである。
詳しい内容については、次にお問い合わせください。
道総研十勝農業試験場 生産技術グループ
電話(0155)62-2431
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