「ジャガイモ黒あし病」ってどんな病気?~新たに解ったこと紹介します~
道総研 十勝農業試験場 研究部 生産技術グループ
農研機構 北海道農業研究センター 寒地畑作研究領域 環境病害虫グループ・畑作物育種グループ
農研機構 種苗管理センター
十勝農業協同組合連合会
1.背景と目的
ジャガイモ黒あし病は種いも伝染性の病害で、種いも生産現場での発生が問題となる。現在主要な病原細菌は3 種類あり(Dickeya dianthicola (Ddi)、Pectobacterium carotovorum subsp. brasiliense (Pcb)、P.wasabiae (Pw))、発生生態には不明な点が多い。本試験は、(1)種いも内部保菌による発病リスクの菌種による差、(2)種いも伝染以外の感染経路、(3)主要ばれいしょ品種の黒あし病に対する感受性の差の有無、(4)唯一の薬剤防除法である種いも消毒における浸漬処理時の有効成分濃度の推移の4点について、明らかにすることを目的として行った。
2.試験の方法
1)病原菌種ごとの種いも内部保菌率と内部保菌した種いもによる発病株率の調査。
2)圃場周辺雑草、停滞水等からの菌検出。
3)越冬後土壌からの菌検出と土壌伝染によるばれいしょでの発病有無。
4)軟腐症状のばれいしょ茎からの菌の検出。
5)種いも接種による主要ばれいしょ品種の発病株率の調査。
6)種いも浸漬処理時の、薬液の連続使用による有効成分濃度推移の調査。
3.成果の概要
1)黒あし病菌3菌種とも、種いも内部での保菌が確認され、菌種による保菌率の差は小さかった。内部保菌した種いもを翌年圃場に植付けた時の発病株率はDdi が高く、種いも伝染による発病リスクが最も高いと考えられた。Pcb も内部保菌種いもによる発病が確認された。Pw は供試いも数が少なく本試験では発病が見られなかった(表1)。3菌種とも伝染源として種いもの重要性は高く、種いも消毒や発病株の抜き取りはこれまで通り行う。
2)圃場周辺雑草のうち、ヒメジョオン等のキク科雑草やオオバコからDdi が、エゾノギシギシ、ノラニンジンからPcb が検出された事例があった。また輪作作物のエンバク野生種からPcb が検出された事例があった。これら検出植物はいずれも無病徴だったが、分離菌はばれいしょに対して病原性があった。大雨後の明渠水からPcb が検出された事例があり、圃場周辺雑草が保菌源となり水を介してばれいしょに感染する可能性が示唆された。
3)黒あし病の腐敗塊茎を埋込んだ越冬後土壌からは黒あし病菌が検出された。秋に発病残渣をすき込み、翌年ばれいしょを連作した圃場では土壌伝染と考えられる発病が確認された。ただし発病は低頻度で土壌伝染のリスクは低いと考えられた。
4)7月下旬以降の軟腐症状の茎からはPcb とPw が検出されたが、Ddi の検出はなく、Pcb、Pw はDdi と異なり、種いも由来とは異なる、初発株から周囲に拡大する軟腐病菌に似た伝染経路も持つことが示唆された(表2)。
5)接種試験による黒あし病に対する感受性には品種間差が認められた(図1)。「とうや」、「男爵薯」、「トヨシロ」等の感受性が高く、「コナフブキ」、「スノーマーチ」等の感受性が低かった。感受性の高低は生産現場での発生実態と必ずしも一致せず、実際圃場での発生には、品種の他にも様々な要因が関わると考えられた。
6)ストレプトマイシン液剤100倍液で種いも浸漬処理を連続して行うと、薬液中のストレプトマイシン濃度は低下し、薬液量は減少した。減少量を100倍液で追加すると、初期濃度の0.2%(w/v)を下回って推移したが、60倍液で追加すると0.2%(w/v)以上を保った(図2)。
4.留意点
1)種ばれいしょ生産現場において黒あし病の低減対策の参考とする。
2)本試験はイノベーション創出強化研究推進事業(01022C)で実施した。
詳しい内容については、次にお問い合わせください。
道総研十勝農業試験場 生産技術グループ
電話(0155)62-2431
E-mail:tokachi-agri@hro.or.jp