「分身ロボ」が代わりに出社、自宅から遠隔操作 障害者の新たな就労の形に
ロボットを活用した新しい働き方が、障害者就労の現場で始まっている。四肢に障害を持つ帯広市内の会社員、上野文士さん(40)は「分身ロボット」を仕事に活用し、自宅にいながら職場にいる社員や来店客とのコミュニケーションが可能になった。「仕事に、社会に戻ってこられたんだと感動した」と話している。(細谷敦生)
上野さんは2003年7月、趣味のモトクロスの競技中に転倒して頸椎(けいつい)を損傷し、四肢に障害が残って歩行困難になった。現在は、車の販売や整備を行うファンファクトリー帯広店(堀雄二朗店長)に勤務。社内でホームページの管理やSNSの更新などを担当している。
これまでは基本的に毎日出勤していたが、2月に床ずれの手術を行ってからは、患部に負担がかからないように在宅での作業になった。ベッドや車いすで過ごす日々が増え、会社や社会との距離を感じていた。
その中で10月中旬、遠隔でコミュニケーションができる分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」と出合った。以前から知り合いだった、意思伝達装置の販売などを行うアクリエイティブ(帯広)の熊谷博輝代表の紹介だった。
オリヒメは、オリィ研究所(東京)が開発したコミュニケーションを支援するロボット。人型のロボット内にカメラやマイクが搭載され、離れた場所からスマートフォンやタブレット端末で操作できる。テレワークやALS(筋萎縮性側索硬化症)の意思伝達装置としての活用が期待されている。
オリヒメは社内の上野さんのデスクに設置。上野さんは自宅にいて、手元にあるタブレット端末で動かす。タブレットにはオリヒメから見える景色が映し出され、首や両腕を動かすことで視線を変えたり感情を表現したりできる。
内蔵のマイクとスピーカーで音声のやりとりも可能。上野さんは「最初は私も相手にも戸惑いがあったが、今では自分の分身として声が届けられている」と話す。堀店長も「その場にいるかのように『おはよう』とあいさつができる。今後は自分たちなりの使いやすさを見つけて、本格的に1対1の接客ができるようになれば」と話した。
熊谷代表によると十勝管内でオリヒメを業務に活用しているのは上野さんが初めてで、現在は試験的に導入している。今後、長期的な実証実験を行いたい考えで、「もっと多くの人にオリヒメの存在を知ってもらいたい」と話す。
上野さんは22日に帯広市内のとかちプラザで開かれる「共生フォーラム」で、遠隔就労について講演する予定。上野さんは「障害者の就労と聞くといろいろと身構えてしまいがちだが、このような新しい就労の形が広まれば」と語った。