農に向き合う~農業経営部会会員紹介「幕別・大坂林業」
1.苗木育て、施設栽培型種苗業
幕別町忠類に広がる40ヘクタールの苗畑で、カラマツやトドマツ、クリーンラーチなどの林業種苗、緑化樹木の生産などが主な事業。約200万本の苗木を育てる。「植える→育てる→伐る→また植える…」といった林業の持続的な循環の一端「苗木を種か自立できる大きさまで育てて、送り出す」までを担っている。
創業者・大坂善次郎氏が1949年、チョマナイ南麓当縁川沿い(現在の幕別町忠類)で種苗業を始め、チップ工業、木工業、林産業へと拡大。2代目・大坂和雄氏(現・取締役会長)の時代に種苗業に専業化。2019年に松村幹了さんが代表取締役に就任した。
松村さんは香川県東かがわ市出身。帯広畜産大学畜産学部の家畜育種学を修了後、米国オレゴン州に農業研修生として、一年間留学した。植木や種苗が盛んな地域で、これらに強く興味を持って帰国したところ、友人から「大坂林業でアルバイトを募集している」と連絡。1996年に入社した。
大坂和雄氏と松村さんは米国や、林業先進地のドイツ、オーストリアなどを視察。林産業が、自動車産業と同等な立場となっている現状に「私たちは30年遅れている」と驚愕。現在の施設栽培型種苗業へと舵を切った。
2020年には、北広島市に7ヘクタールの苗畑を取得。現在は営業所も置き、札幌などの都市部やニセコなどの観光地に向けた、北海道に自生する広葉樹を中心とした緑化樹木の供給も始めている。
2.「苗木の保育園」として「コンテナ苗」採用
大坂林業の事業は、一言で表現すると「林業を支える源流部」を担う格好だ。人間に例えると、赤ちゃんから卒園児までを預かる「保育園のようなもの」(松村さん)。
「苗木の保育園」としての取り組みの一つとして、欧米を中心に広がった育苗手法「コンテナ苗」を採用する。硬質樹脂製の特殊なコンテナ容器で育てた根鉢付きの苗木は、大量生産が可能で、畑で育てた「裸苗」と比べて、長く植えることができるメリットがある。
同社では2010年から「コンテナ苗」の試験生産に入り、翌年から本生産を始めた。19年には生産規模100万本の施設整備も完了。なるべく、自然に近い形での成長も促すなど、「コンテナ苗」が、造林苗木の一生産体系として普及するよう、独自の取り組みも進める。
また、木材利用期に安定的な供給を進めるため、機械化や効率化にも積極的。画像による選別機や協働型ロボットなどを導入し、省力化に努めている。
3.「農業経営+α」の魅力あるメンバー
農業経営部会には5年前に入会。きっかけは、ファームノートホールディングスの小林晋也社長や十勝しんむら牧場の新村浩隆社長らの考えに触れた事だ。
十勝しんむら牧場の景観を整える仕事に携わった時、従来の牧場のイメージではなく、顧客を快く迎え入れる準備など、「新村さんが持っているイメージを、しっかりと具現化されている」と感じた。松村さんは「メンバーは農業経営+αの魅力を持った人が多い」と話す。
コロナ禍の中、先の読めない時代を迎えたが、「メンバーそれぞれの試みが、大変示唆に富んでいて、学びになる」。現在は、とかち支部環境部会長(同支部幹事)として、環境問題への取り組みも進める。
4.林業を生業として地域に定着できる手伝い
松村さんは「森林は、人の生活環境の外縁をなすもの」との考えを持つ。林業会社として森林・林業の持続性に貢献する事は、「林業を生業として、この地域に人が定着するお手伝いもできる。その結果として、美しい農村景観が保たれる」と説く。
「うれしいことに、林業に興味を持つ人が増えてきている」中で、季節性がある雇用環境も改善。薪の生産など、通年働ける環境を整えた上で、柔軟な働き方も用意した。林業を若手に継承する考えから、新卒を含めた社員の採用を積極的に進める。
「十勝の大地で、いつか森となる苗木を、手間ひまかけて育む」。自然から学び、天候とも折り合いながら、半世紀の間に積み重ねた経験と知識を生かして、これから50年後の山を作るための「苗木づくり」を進めている。
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