陸別のしばれは「盆地冷却」、北見工大の高橋名誉教授
【陸別】日本一寒い町として知られる陸別町の「しばれ」のメカニズムを、北見工業大学名誉教授で道立オホーツク流氷科学センター所長の高橋修平氏が体系的に解明した。平野部から流れてきた冷気が谷間にたまる陸別独特の地形がもたらす「盆地冷却」などが要因であるとし、15日、りくべつ宇宙地球科学館・銀河の森天文台で町民らを前に講演した。併せて、しばれの様子が分かる地形の模型(ジオラマ)も公開した。
北見工大と町しばれ技術開発研究所(しばれ研、佐藤秀昭所長)が1991年から町内約30地点に小型の気温記録装置を設置し、冬期間(12~3月)の気温データを10分ごとに収集した。
観測地点は(1)トマム地区(斗満川流域)(2)小利別地区(小利別流域)(3)上陸別地区(陸別川流域)-に大別。その結果、気象庁のアメダス地点(緑町)よりも最低気温が低い地点が何カ所もあることが分かった。
トマム平野部の高田牧場(トマム北1線)では、2013年1月5日午前4時の観測データが氷点下38度だったが、アメダス地点は同29・2度で、9度近くも温度差があった。アメダスの全国最低気温1位が他地区の場合でも、同牧場などがそれを下回る日が何日もあった。同牧場は00年1月27日午前6時すぎに同40度を観測し、これまで集積した町内全地点の観測データで最低を記録した。
この他、小利別丘下やクンネベツ(分線下流部)、上陸別などが冷える地域で、いずれも各流域の谷間の下流地域だった。
一般的に平野部より高地の方が気温は低いが、高橋氏は「陸別の地形は周囲の冷気が盆地にたまり冷気湖が形成される『盆地冷却現象』が起きている。牧草地のような木がない斜面が多いと、冷たくて薄い空気が流れやすい。全国的にも珍しい地形」としている。
公開されたジオラマは縮尺3万分の1で、長さ120センチ、奥行き85センチ。標高は冷気の流れを際立たせるため実寸比の3倍に誇張した。上部のプロジェクターから画像を照射し、温度分布の毎時間の変化を色別で表示、冷え込みの推移を時系列で確認できる。同大が無期限で同天文台に貸し出す。
しばれ研の佐藤所長は「客観的データによって日本一の寒さが裏付けられた。胸を張って皆さんに披露できる」、金澤紘一町長も「アメダスより気温が低い地点があることは町民誰もが知っている。地道に調べてもらいありがたい」と話している。(鈴木裕之)
陸別が冷える理由
(1)盆地状地形 平野下流部の両側の山が狭まるところで冷気がたまる。
(2)緩い傾斜の平野部 冷気が適度に流れる平たん地がある。
(3)牧草地・畑が多い 木がない斜面では温度が低く薄い冷気が形成される。
(4)乾燥している 北海道の中央山脈(大雪・日高)を越してきた大気は比較的乾燥し、放射冷却の度合いが強い。
(5)分水嶺に位置する 太平洋とオーホーツク海の分水嶺にあり、冷気が両側に流れるため、上空からの補償沈降流が乾燥している。
(6)シモザラメ雪の発達 熱伝導率が低いシモザラメ雪のため、地中からの熱流が抑えられ、積雪表面温度が低くなる。
(高橋氏の講演から)