酪農場データを使ってケトーシス発生を減らそう
道総研酪農試験場 酪農研究部 乳牛グループ
道総研畜産試験場 畜産研究部 家畜衛生グループ
1.試験のねらい
近年、全道において牛群検定時に乳中ケトン体情報として乳中βヒドロキシ酪酸(BHB)濃度の測定体制が整備され、牛群におけるケトーシス※の疑い割合等の持続的な監視が可能となった。本試験では、乳中BHB 濃度と牛の状態および農場の飼養管理方法との関係性を調査し、牛群検定の乳中ケトン体情報の活用法を提示することを目的とする。
※ケトーシス:生体内にケトン体が増加することで、食欲低下、乳量減少、神経症状等を起こす疾病。牛群検定では乳中BHB が≧0.13mmol/L の牛を高BHB 牛と定義している。
2.試験の方法
1)高BHB の発生が個体または牛群成績に及ぼす影響を明らかにする。
2)高BHB 発生のリスク牛の予測指標を作成する。
3)試験紙(サンケトペーパー)を用いた高BHB 牛の摘発方法を検討する。
4)分娩後の高BHB 発生パターンを分類し、パターン毎の牛群成績を比較する。
5)高BHB 発生農場における周産期管理問題点を明らかにする。
3.成果の概要
1)個体における分娩後60日以内の乳用売却を除く除籍割合は高BHB 牛の方が高く(オッズ比1.23)、分娩後の初回授精受胎率は高BHB 牛で低かった(オッズ比0.90)。経産牛1頭当り乳量が全道平均9,300 kg 未満の農場では、高BHB 牛割合の増加とともに乳量が増加したが、それ以上の農場では高BHB 牛割合が11%以上になると乳量が減少した。
2)分娩後の高BHB 発生のリスク要因は、分娩前に過肥であることが特徴的であり、リスク牛の予測指標は、表3内のリスク牛の特徴の通りである。
3)分娩後8週目までに試験紙による週1回の検査で、一度でも高BHB 牛(試験紙による閾値 ≧0.1 mmol/L)であった割合は55.4%であったが、月1回の検査では31.8%であった。そのため、牛群検定では半分程度見逃している可能性があるため、高BHB 牛の早期摘発には、試験紙による週1回の検査が有効である。
4)調査農場のクラスター解析の結果、分娩後2- 3週目に高BHB 牛発生割合が高い「過肥型」、分娩後6週目まで継続して発生割合が高い「複合型」および分娩後一貫して発生割合が低い「低発生型」の3パターンに分類できた。複合型は、分娩後の乳成分値異常牛割合が最も高く、周産期疾病の発生も多いことから、複合型の農場では特に周産期管理の改善が必要である(表1)。
5)高BHB 牛割合が高い農場では分娩直近の牛群移動、乾乳牛1頭当りの飼槽幅が狭い、搾乳牛1頭当りの休息場所が少ない等の特徴が認められた。一方で、分娩介助のタイミングが比較的早い、分娩前後のCa 製剤を投与している農場は高BHB 牛割合が低いまたは低くなる傾向にあった(表2)。以上の結果より、周産期管理における乳中ケトン体情報の活用法を作成した(表3)。
4.留意点
1)早期の分娩介助は、産道の開大が十分でない場合も考えられるため、本成績では推奨しない。
2)ケトーシス発生予防には、表3に示した対策に加え、乾乳期に過肥にさせない対策が重要である。
詳しい内容については、次にお問い合わせ下さい。
道総研酪農試験場 酪農研究部 乳牛グループ 窪 友瑛
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