放牧とフリーストールと組み合わせて労働生産性を向上
道総研酪農試験場 酪農研究部 乳牛グループ
1.試験のねらい
フリーストール(以下、FS)飼養方式を導入する放牧経営の飼養管理、労働時間および牛乳生産費を明らかにし、FS 飼養方式と放牧を組み合わせた酪農経営指標を提示する。
2.試験の方法
1)農家実態調査により、FS 飼養方式を導入する放牧経営の特徴および導入目的を明らかにする。
2)労働時間および牛乳生産費の調査により、FS 飼養を導入する放牧経営における労働時間および生産費の特徴を明らかにする。
3)試算分析により、FS 飼養方式の導入が放牧経営の総労働時間および農業所得に及ぼす影響を明らかにする。
3.成果の概要
1)調査対象とした放牧経営は、増頭に際し、省力化のためにFS 飼養方式を導入している。安価なアブレストパーラーを用いることで、投資の抑制を図る経営が多い。うち、中牧区(数日滞牧型輪換)放牧を採用する経営は、増頭に伴い、経産牛1頭当たり放牧地面積縮小への対応、放牧地管理の省力化等のため、滞牧日数を延長するとともに、牧区面積を拡大し、小牧区(1日輪換)放牧から中牧区放牧に変更している。あわせて、飼料摂取量向上のため、分離給与方式から部分混合飼料(PMR)給与方式に移行している(図表略)。
2)FS 飼養方式を導入する放牧経営は、繋ぎ飼養の放牧経営に比べて、経産牛1頭当たり労働時間が17~40時間(2~4割)少ない。うち、中牧区放牧を採用する経営は、小牧区放牧を採用する経営に比べ、飼料効果が低いが、必要放牧地面積、経産牛1頭当たり労働時間が少ない(表1)。
3)FS 飼養方式を導入する放牧経営における実搾乳量100kg 当たり全算入生産費は繋ぎ飼養方式の放牧経営に比べ低く、中牧区放牧を採用する経営において最も低い。また、放牧方式によらず、放牧期における実搾乳量100kg 当たり全算入生産費は舎飼期に比べて低い(表2)。
4)建築単価の上昇を見込んだFS 飼養方式導入(80床、アブレストパーラー)に伴う総投資額は13,872万円に達すると試算される(図表略)。これに対し、経産牛80頭を飼養し、中牧区放牧を採用することで、乳代90円/kg、個体販売価格が高騰前の水準でも、資本回収見込期間(利子率2%)は17.6年となり、総合耐用年数内(21.5年)での資本回収が可能になる(表3)。
5)経産牛60頭規模の繋ぎ飼養放牧経営がFS 飼養方式を導入することで労働時間を削減することができる。さらに、中牧区放牧を採用し、経産牛80頭に増頭することで、乳代90円/kg、個体販売価格が高騰前の水準でも、農業所得を維持しながら労働時間を約900時間(2割)削減し、1時間当たり農業所得を増加させることができる(表4)。
4.留意点
家族労働を中心とする繋ぎ飼養放牧経営がFS 飼養方式を導入する際の判断に活用する。
詳しい内容については、次にお問い合わせ下さい。
道総研酪農試験場 酪農研究部 乳牛グループ 濱村寿史
電話 0153-72-2158 FAX 0153-73-5829
E-mail hamamura-tosihumi@hro.or.jp