少し静かな気の合う仲間~人の気配
広島県福山市に「ぬるま湯よしだ」という名前のDJがいる。この連載で紹介するのは10年以上の付き合いになる人が多いが、彼とも出会ってもうすぐ20年というところに来ている。たまにしか会えなくても、長くその関係を守っていたいと思えることは人の気配に他ならないだろう。
本名・吉田綾介さんは、デザイン関係の仕事をしながら、パーティーをオーガナイズしている人物。ツアーのオフ日を福山に合わせて2人で飲み屋をハシゴしたり、人生の節目に一緒に小旅行に出掛けたり、なんだかとても気が合うなと僕は思っている。ただ、彼がどう思っているかは分からない。分かりにくい表情をしている。どちらかというと静かな男である。それでいて真夜中のパーティーでDJをする。そのたたずまいが良い。
先日も吉田さん主催のオールナイトパーティーでDJをした。午前1時ごろからの自分の出番を終え、その後もしばらく遊んだ後、僕は誰にも言わずにクラブを後にした。クラブから帰る際、「最後にテキーラを!」という流れになることも多いので、もう限界の時はこっそりが正解なのである。この先は想像だが、主催者の吉田さんは朝まで踊っていたに違いない。
そして翌朝、僕のチェックアウトの時間に合わせて彼はホテルに現れた。さらに新幹線のホームまで来て見送ってくれた。年下である僕に対してもそのように動けることは、決して損得勘定ではないことは明らかで、なんだかやっぱりうれしかった。
言葉を使ってコミュニケーションを取ることも大切だが、それ以外の感覚を使ってその人とつながることができれば、それこそが長く付き合える仲間と言えるのかもしれない。歌詞のない『First Page』を聴きながら、過去の福山の夜も思い出している。
<Keishi Tanaka(タナカ・ケイシ)>
ミュージシャン。1982年大樹町生まれ。帯広柏葉高卒。Riddim Saunterを解散後、ソロ名義での活動を続け、V6への楽曲提供も話題となる。ニューアルバム『Like A Diary』のリリースツアーを終え、次は9月のバンド編成ライブに向かう。