昆虫寄生菌で蚊防除 マラリアなど感染症対策で 帯畜大の相内助教
菌を活用した蚊の防除法確立を目指す帯広畜産大学の相内大吾助教(38)らの研究グループは、昆虫寄生菌が蚊の脳に侵入し、死に至らしめることを明らかにした。マラリアなどの感染症を媒介する蚊の発生抑制に着目した研究で、感染症対策につながると期待されている。
相内助教によると、世界では蚊が媒介するマラリアで年間40万人が死亡しており、予防策の確立は急務となっている。かびの一種の昆虫寄生菌は名前の通り昆虫に寄生し、栄養分を利用された昆虫は死ぬ。人間には寄生しない。この特性を生かし、菌を活用した生物的防除は農業害虫駆除で実用化されている。化学殺虫剤で虫を駆除すると、いずれ抵抗性が強まるが、生物的防除はその心配がないなどの利点がある。
研究では、西アフリカのブルキナファソと日本で採取したハマダラカの体内から、高い病原性を持つ昆虫寄生菌を特定。その後、菌の菌糸が蚊の脚と針のよう口吻(こうふん)の2経路で体内に侵入し、さまざまな組織に伸びていくことを突き止めた。
これまでは、蚊の血体腔(血液を流す隙間)で短い菌糸が増殖していると考えられていた。
さらに、死亡個体はすべての脳が菌感染していたが、生存個体では脳への感染はなかった。脚経路に比べ、脳への物理的距離が近い口吻経路の方が早く致死することも分かり、相内助教は「昆虫寄生菌の脳への侵入が昆虫の致死要因であると示した、世界に先駆けた研究。感染症を断ち切るには、蚊の密度を低くすることが大切」と話す。日本でも蚊が媒介するデング熱感染者が確認されるなど、対策が必要とする。
口吻が重要な感染経路と判明したことから、新たな菌接種装置や防除資材などが開発され、効果的な蚊の防除につながる可能性がある。また、菌に感染した蚊の行動が変化し、吸血行動ができなくなることも解明されつつあり、この観点から感染症伝播防止の研究も進める。
共同研究には、ブルキナファソのワガドゥグ大学や帯畜大大学院修士2年の松崎優さん、東京慈恵会医科大学の嘉糠洋陸教授(元帯畜大教授)らが協力した。研究成果は科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された。(池谷智仁)