悲願の開通~道東の道物語(3)穂別トンネル
技術と知恵 挑んだ14万人
昨年8月、建設中の道東自動車道(道東道)夕張-占冠間のほぼ中央に位置する「穂別トンネル」(延長4318メートル)坑内で行われた貫通式。工事関係者ら約300人が見守る中、夕張側から藤倉肇夕張市長(70)=当時=、占冠側からネクスコ東日本の山本裕己道支社長(57)ら関係者が歩み寄り、固い握手を交わすと坑内は大きな拍手に包まれた。延べ14万人が4年半かけて挑んだ山との「戦い」に勝利した瞬間だった。
同区間を建設する千歳工事事務所の水口和之所長(49)は「穂別の貫通は開通の試金石。現場も地域の思いや工事の重要性を分かっていた。『リレーの最終走者』として場にいられたことに胸がいっぱいになった」と語った。
軟弱な蛇紋岩作業停滞焦り
道東道の建設は1986年10月、池田-清水間の中心杭(くい)の打設で事実上着工。清水以東はトンネルや橋などの構造物が少なく、国道38号の北側をほぼ一直線に進んだ。一方、標高1022メートルの日勝峠越えや、軟弱な蛇紋岩が広範囲で分布する地帯を貫く占冠以西は構造物が多く、当初から難工事が予想されていた。特に夕張山地の南端部を貫く夕張-占冠間は「どの程度の期間、費用が掛かるのか分からない」(水口所長)とされ、「飛び地着工」の要因にもなった。
中でも同区間の3本の長大トンネルのうち最長の穂別トンネルは「道東と道央を阻む最後のとりで」(工事関係者)。2006年に占冠と穂別の両側から掘削を開始、当初月40~100メートルのペースで順調に掘り進んだが、08年に蛇紋岩地帯に入ると同20メートルにペースダウンした。昼夜連続作業で1メートルも進まない月もあり、工事関係者を悩ませた。
山の圧力を抑える構造物を二重に設置する「高耐力二重支保工」など高速道路で初となる工法を複数用いたが、400メートルに及ぶ土被り(トンネル上の土の厚さ)対策や切り羽(先端部)崩落の修復作業も求められ、作業量は増すばかり。掘削の進ちょくと並行して安定するはずの山は反比例して不安定になり、残り1000メートルで作業は停滞、開通を2年後に控えた09年、同事務所は焦りを感じた。高橋俊長工事長(46)は「予想以上に進まない。『開通時期に影響してくるのでは』と思った」と振り返る。
2倍の重機…全国初の工法
数度に及ぶ検討会や試行錯誤の末、09年夏から全国初の「2セット施工」と「瞬間吹き付けコンクリート」を活用した工法を採用。前者は通常の2倍の重機を投入し、後者は18分の1の時間で同様の強度が得られる材料のことで、掘削ペースは月40メートルに回復、貫通のめどが立った。
トンネル貫通から1カ月後、ネクスコ東日本は道東道の開通見通しを公表。同区間の工事は80年以上の歴史を持つ土木学会(東京)の「土木学会賞・技術賞」を受賞した。
道東道の札幌直結実現に、現場関係者の感慨はひとしお。穂別トンネルの工事に携わった清水・株木JVの主任技術者、八木偉留真さん(37)は「30歳で担当してあっという間の7年だったが間に合ってほっとしている。地域にとって便利な道になってほしい」と心から願っている。(犬飼裕一)
<道東自動車道の整備効果>
道東道の夕張-占冠間(34・5キロ)が10月29日に開通、道東圏と道央圏が直結することで、札幌-帯広間の所要時間は日勝峠を経由し、すべて一般道を利用した場合(約4時間20分)と比べて約80分短縮され、約3時間となる。標高1022メートルの日勝峠と比べて標高が約400メートル下がり、道路の走りやすさが大幅に改善されることからドライバーの利便性向上、交通事故や霧による視程障害発生の減少、地域の救急搬送の選択肢の増加などの効果が期待されている。