料理人との共通点~人の気配
何もない白い箱の中で、人間は何日生きられるだろう。色も音もない空間、あるのは腹を満たすだけのパンと水。息はできても、僕なら1日と持たずに気が狂うだろう。
決してぜい沢という意味ではなく、心が喜ぶように生きる。そのために音楽が必要だと信じている。それがミュージシャンを続ける理由のひとつだ。同じように、おいしい食事は人の心を豊かにする。料理人を僕は尊敬している。
今回紹介するのは、代々木上原の名店「MAISON CINQUANTECINQ(メゾン サンカントサンク)」をはじめ、その系列店で腕を振るってきたシェフの八巻淳司さん。友人でもある彼の料理を何度も食べてきた。そのたびに喜びを感じていたし、知らないものへの好奇心も湧いた。フランス料理を知らない僕が、唯一通っているビストロである。
料理への探究心はもちろん、それ以外にも面白いことを彼は探しているように思う。実際、一緒にライブイベントの企画もしてきた。僕が音楽を通していろんなところにアプローチするように、彼は料理を通してそれをやっている。それが自然体ということも共通点だ。そんな彼と気が合わないはずがない。人生を楽しむという意味で、生きている僕らは全員がクリエーティブであるべきなのだ。最近も彼と仕事を共にして、心の中でそんなことを再確認していた。
いろんな情報が簡単に手に入る世の中だからこそ、そこに満足することなく、おいしい料理を食べて、生の音楽を楽しんでほしい。「肌に触れた愛は消えやしないから」と歌った新曲『See Your Heart』を、八巻さんも気に入ってくれたようだ。その言葉の意味に共感してくれたのだと勝手に思っている。ぜひ一度、彼の料理を食べてみてほしい。
<Keishi Tanaka(タナカ・ケイシ)>
ミュージシャン。1982年大樹町生まれ。帯広柏葉高卒。Riddim Saunterを解散後、ソロ名義での活動を続ける。V6への楽曲提供が話題になるなか、最新アルバム『Chase After』に続き、新曲『Joy』『心たち』を含む新作EPをリリースしたばかり。