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猛暑への対策は 土づくりや即時性のある情報収集を 耐病性品種に期待 「農業新技術」座談会

 記録的な暑さに見舞われた2023年。道が農業団体と連携し、気候変動対策を検討する会議を開くなど、寒冷地の十勝でも「猛暑対策」の必要性が話題に上がるようになりました。指導農業士として長年の経験を持つ地元生産者と農業気象を専門とする研究者に、現状や課題、必要な取り組み、今後を見据えた展望などを語ってもらいました。

猛暑対策について意見を交わした(右から)石郷岡氏、津島氏、高久編集局長


【出席者】
・十勝指導農業士会会長 津島朗氏
・農研機構農業環境研究部門(茨城県つくば市)気候変動適応策研究領域 作物影響評価・適応グループ長 石郷岡康史氏
・十勝毎日新聞社 執行役員編集局長 高久佳也

 高久 昨年は管内JAの農畜産物取扱高が3573億円と史上2位の高水準となった。一方で記録的な猛暑によって、作物によって明暗が分かれた。具体的にどのような影響があったのか。

<いしごうおか・やすし>
 1970年秋田市生まれ。北大農学部卒、北大大学院博士課程単位取得。99年から茨城県つくば市の農業環境技術研究所(当時)で勤務し、2020~23年度は農研機構北海道農業研究センター芽室研究拠点に在籍。24年4月から現職。

小麦は収穫増、ビート糖度低下
 石郷岡 昨年の夏の平均気温は突出した過去最高を記録した。加えて、3~5月の春、9~11月の秋も過去最高の気温と、冬季を除いて3季が非常に気温の高い天候となった。ちなみに、2010年も猛暑とされ、当時は道内ではほぼ初となる高温による農作物への悪影響が出た。ただ、この年は春は低温だった。

 23年は初期生育が順調で、小麦などは収益が多かった。小豆は発育が早過ぎるなどの影響が出た。ビートは収量は良かったが糖分は低かった。褐斑(かっぱん)病が大発生するなどの被害があった。

 津島 小麦は暖かさで生育ステージが早く進み、夏の高温期の前に早く収穫を終えることができてよかった。ビートは秋になっても夜の気温が下がらず、糖度に影響が出た。ただ、個人差もあり、15%以上の糖度を維持していた農家もあった。ナガイモは豊作だったが、11月最初の収穫時には丁寧に作業しても砕けたイモがあった。寒さで糖度が上がった11月20日ごろはイモが砕けなかった。向こう1カ月ほど時期が後ろにずれている印象があった。

 厳しいのは豆類。十勝の中央部は周辺より2度ほど気温が高く、2次成長するなど影響が大きかった。中央部から離れると、安定した収量のところもある。新たな病害虫も多発傾向となっている。

 高久 農作業のカレンダーが昔に比べてずれている気がする。猛暑に対する営農技術はどうか。

猛暑の影響で収量はあったものの糖度が落ち込んだビート

地温と土壌水分見極めて
 津島 冷湿害の際もそうだが、猛暑についても「土づくり」が大切だと考える。私は農業に取り組んで42年ほどだが、影響を受けないためには、「作土の深さ」がポイントになる。作土が深いほど、根がそこまで張って水を吸える。一番影響があるのが石れき。表土が浅くて下が石になっていると、雨が降らずに高温が続いた場合に枯れ始めてしまう。川の流域の近郊は枯れている傾向がある。

 表土が浅いところであれば客土をする。堆肥や緑肥を入れる。近年はデントコーンやスイートコーンを栽培していると、作土よりもさらに奥深くまで根が入ると言われている。それが腐敗し、次の作物もより深く根が入る。それが干ばつ対策になっている。

 現場としては土づくりは高温でも冷害でもぶれない第一前提だと感じる。それが成り立ってから防除をどうするかということになる。かんがい施設の本格的な整備は、自治体や国による支援が必要となるが、国が本気で食料対策をするのであれば、必要と考えるかもしれない。

 今後は暦通りというよりは、地温の上がり方と土壌水分を見極めて、播種(はしゅ)作業をするなどの取り組みが必要だと感じる。冷湿害対策と高温対策は真逆だが、農家ごとに工夫しなければならない。

 石郷岡 気象は不確実な要素が多く、従来のスケジュール通りでの営農活動は難しい。われわれ研究機関では、気象条件に基づいた営農支援システムをいくつか整備しており、リアルタイムの気象情報に合わせた適期での防除や肥培管理などに対応していくことが重要になってくる。品種ごとに農家の工夫を手助けするシステムになるのではと考えている。

<つしま・あきら>
 1961年音更町生まれ、同町在住。道立農業大学校卒。20歳から実家で農業に営み、現在は115㌶で畑作4品とスイートコーン、ニンジンを栽培する。2021年から現職。NPO法人食の絆を育む会監事なども務める。

 また、最近は春と秋の温度が上がってきているので、作付けなどが可能な期間が広がることも考えられる。従来は作業の時期がほとんど決まっていたが、今後は一時期に集中していた作業の分担が可能になるなど、温暖化がプラスに働くことも出てくる。

 高久 十勝ではこれまで、耐冷性の作物が栽培されてきたが、暑さに耐える作物の開発や研究などについての考えは。

 石郷岡 ここ10年ほどは冷害が発生していないが、それがなくなるかといえば、必ずしもそうではない。高温ばかりに対応してしまっては、低温時に壊滅的な打撃を受けてしまう。それを前提にしつつ考えると、今後は高温多湿の気候による病気が増えるため、耐病性のある品種が重要となる。また、早生(わせ)品種は高温ではさらに生育が早くなるため、もう少し生育が遅いタイプを入れていくことも必要になると感じる。

 津島 十勝は晴れの日が多いことで作物が光合成をしっかりでき、秋は夜間の温度が下がるので糖化する。それが十勝の作物のおいしさにつながっていると感じる。これまでは、メリハリのある十勝の気候に合わせた作物が作られてきた。気候が変化する中で品種への期待は大きい。耐冷性、耐暑性、耐病性。欲張りだが、この三つの強みを持った作物を開発してもらえればありがたい。

 高久 昨年の暑さを受け、十勝で新たな作物の導入が広がる可能性はあるか。

温暖化が進む中、注目されている「新顔作物」のサツマイモ

サツマイモ、落花生など産地化へ
 石郷岡 サツマイモや落花生などはこういった気候が続けば、産地化が見えてくる。十勝を含む道内では栽培が広がっている。もちろん、低温になるリスクはあるため、それが難しいところだが。ワイン用ブドウは被膜材が必要となるなど温暖な地方と栽培方法の違いはあるが、普及の可能性はある。サクランボやモモ、リンゴなどの果樹もすぐに産地化はできないとはいえ、平均気温が上がれば期待は持てる。一方、気温が上がっても緯度は変わらないため、日の長さなどは本州とは異なり、夏と冬での温度差もある。実験を繰り返して定着させていくプロセスが必要となる。

 津島 十勝の農家はチャレンジャー。設備や土地があるため、他の作物に挑戦することもできるはず。ただ、十勝は日本の胃袋を守るのが役目。小麦などの畑作4品の柱をしっかりと維持しつつ取り組むべきだと思う。

高久佳也十勝毎日新聞社執行役員編集局長

 高久 改めて、農業者は今後どう対応していけばいいのか。

 石郷岡 低温のリスクを意識しつつ、高温に適した作物や栽培方法に少しずつシフトしていくことが重要になる。ただ、気象庁などの研究によると、昨年の記録的な高温は、地球温暖化の影響を加味しても約60年に1度の非常にまれな高温だったとしている。それだけに、異例だった23年を前提にすることは控えたほうがいいと考える。ただ、50年には昨年の気温が平均気温になるとの予測もある。また、16年のような台風被害も考えられる。変化の多い気象の中で即時性のある情報を利用し、適切な営農を行ってほしい。

 津島 高温に加え、局地的な激しい雨なども多い。やはり土づくりが大切。地帯の勾配や区画も考えると、一概に大規模な畑にすればいいとは思えない。客土や堆肥、暗きょ、排水路など、地帯によって畑のつくり方があると考える。農業生産の基本に対して忠実に取り組んでいきたい。

 新たな病害虫も発生している。過去には、小麦の縞(しま)萎縮病などは十勝では出ないと言われていた。秋に地温が上がることで出始めており、その場合は早期播種を控えることで対処している。われわれはより敏感に情報収集している。そういった対策などを専門機関から適宜アナウンスしてもらえれば大変助かる。ビートは褐斑病が広がったが、ドイツでは褐斑病に抵抗性のある品種があり、今後導入される可能性もある。品種改良にも期待したい。

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