AIロボでiPS細胞培養 音更出身の理研・神田氏ら世界初
理化学研究所などのチームは、ヒト型ロボットと人工知能(AI)を組み合わせ、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から効率的に目の網膜細胞を作り出すことに成功した。細胞培養や再生医療分野で、人間が介在しない自律実験の成功は世界初。音更町出身で、理研生命機能科学研究センター(神戸市)の神田元紀上級研究員(34)が研究を取りまとめた。
AIが試行錯誤し、最適な培養条件を見つけ出した。熟練技術者が1年掛けて行う作業を3分の1程度の期間で実現する。正常な網膜細胞に変化する割合は最大91%と熟練技術者と同水準で、品質も遜色なかった。
iPS細胞を培養して別の組織に分化させるには、薬剤濃度や操作順序などの条件の最適な組み合わせを探る必要がある。膨大な試行錯誤が求められ、高品質な細胞培養には熟練技術者の匠(たくみ)の技が不可欠となっている。ただ、匠の技は暗黙知の部分が多く後継者育成が困難で、臨床現場での需要に追いつかない課題がある。
今回の研究では、ヒト型ロボット「まほろ」にAIを組み合わせたシステムを開発。薬剤濃度や薬剤処理時間など7項目の条件を変えながら、120日間掛けて最適な組み合わせを導き出し、網膜細胞に分化させた。
このシステムを活用することで、人間が試行錯誤している実験部分をロボットとAIに置き換えることができる。神田上級研究員は「iPS細胞を他の細胞に分化させる最適な方法を探る他、新型コロナウイルスワクチン開発などの実験に幅広く活用できる」と話す。
今回の研究成果はイギリスの科学雑誌「eLife」に掲載された。(池谷智仁)
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神田上級研究員に、今回の研究の成果や今後の展望を聞いた。
-研究の成果は。
科学の自動化と再生医療の次世代化という二つの観点で成果があった。
ロボットとAIによる自律実験の実現は、生命科学実験全般の加速、効率的な試行錯誤や再現性の向上が図れる。人手を介さず再生医療用細胞を製造するシステムの開発で、技術移転が難しかった匠の技を広く世界に開放できる。研究者は、より創造的な仕事に専念できる。
-苦労した点は。
ヒューマンエラーを防ぐ仕組みの構築だった。ミスをしないロボットの邪魔にならないよう、人間が準備する薬剤補充や設定などに間違いがないか気をつけた。
-今後の展望を。
ロボットとAIと人間が一緒に研究する社会に向け、生命科学実験のクラウド化を目指している。多くのロボットを1カ所に集めた実験センターを作り、研究者は取り組みたい実験をプログラミングして送る。するとロボット集団は連携し、適切な方法で実験を進める。
AIが自らの仮説を確かめるためセンターを活用し、人間が思いつかないアイデアが出てくる時代になるかもしれない。
<かんだ・げんき>
音更小、音更中、帯広柏葉高、北大薬学部卒。北大大学院修士課程、大阪大大学院博士課程修了。2012年から理研に勤務。