「十勝は食を基本にイノベーション」 日銀の黒田総裁が初来勝
日本銀行の黒田東彦総裁が1日に来勝し、帯広市内のホテルで、十勝毎日新聞社の林浩史社長のインタビューに応じた。効率性とブランド力を兼ね備えた十勝農業を評価し、「(十勝経済は)キーとなる食を生かしつつイノベーション(変革)を加えている。全国的に見て北海道は順調に成長しており、特にこの地区は堅調に推移している」との見方を示した。
全国の支店・事務所視察の一環で7月31日と1日の2日間、釧路支店(山崎真人支店長)と帯広事務所(水川達生所長)を訪れた。併せて十勝を含む道東地域の行政、金融、経済の代表者とも懇談した。黒田総裁がプライベートも含めて十勝を訪れるのは初めて。インタビューには山崎支店長と水川所長が同席した。
畑作や酪農・畜産を基幹産業とする十勝・釧路を視察した印象について、「日本では珍しく(土地が)極めて広い。だから農業でも畜産でも大規模」と強調。十勝農業については、「機械化などで合理化し、品質、ブランド化に力を入れている。量的にも質的にも非常に優れた物を作っている」と語った。
大樹町のベンチャー企業インターステラテクノロジズ(IST)によるロケット打ち上げなど、十勝が長年取り組む宇宙基地構想を踏まえ、「新産業にチャレンジするのは、この地域の特徴なのかも。ある意味、チャレンジする余裕があるのがいいところ」と述べた。
北海道・十勝の産業発展の背景には、高速道路を中心とするインフラの整備が貢献していると強調。「北海道の未来は比較的明るい。人口減少の中、どう産業を発展させ、雇用を拡大させていくかは経済界や行政の役割が大きい」と語った。
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日銀 黒田東彦総裁×勝毎 林浩史社長インタビュー
日銀の黒田東彦総裁は1日、十勝毎日新聞社の林浩史社長とのインタビューで、農業、観光などを含む十勝の印象について幅広く語った。主なやりとりを紹介する。(文中敬称略)
量も質も優れた
林 帯広・十勝は初めてと聞いた。ここ数日は暑い日が続いている。
黒田 (直近に訪問した)フランスのG7、アメリカのコロンビア大学も暑かった。アメリカは38度はあった。帰国すると東京も梅雨明け。そして道東に来たら暑くて、さらに驚いている。
林 十勝は歴史的に畑作、酪農・畜産が経済のメーンとなっている。
黒田 農業も畜産も大規模。機械化やロボットを導入して大変な合理化を進めている。生産者が品質向上やブランド化に力を入れていると感じた。量的にも質的にも非常に優れた農畜産物を作っている。
キーとなる食を生かしつつ、イノベーションを加えているのが印象的。全国的に見ても北海道の経済は順調に成長しており、特にこの地区は堅調に推移している。その核になっているのが畑作と酪農・畜産。
観光は特殊な産業
林 十勝はチャレンジ精神が旺盛。食と結び付いた観光もある。
黒田 観光は特殊な産業。スイスのような所得が高いところや中くらいのタイなどの国、カンボジアやミャンマーといった低所得の国でも成立する。日本もしかるべき魅力を備えていれば、十分成立する。
林 十勝といえばロケット。5月には大樹町で、小型観測ロケットの(宇宙空間への)打ち上げに成功した。
黒田 (かつて主力だった)石炭、鉄鋼、造船、化学など重化学工業は所得が上がると、コスト面で途上国と対抗できなくなる。北海道・十勝は農畜産や観光に加え、新産業にチャレンジする余力があるのがいい。もちろん、チャレンジなので必ず成功するわけではない。ただ、挑戦しないと新しいところは開けない。
北海道将来明るい
林 十勝は民間が開拓した歴史を持つ。経済に関し期待することは。
黒田 国や道庁の貢献もあるが、高速道路が整備されてきている。空港も道内全体が民営化されて運営される予定だ。インフラが産業の発展に貢献している。そういう意味で、北海道の将来は比較的明るい。
日本全国で人口が減る中、どう産業を発展させ、雇用を拡大させていくのか、それぞれの経済界、行政が果たす役割は大きい。
<黒田東彦>
くろだ・はるひこ。1944年、福岡県出身。東大法学部卒。大蔵省(現・財務省)で国際局長などを歴任。2013年から日銀総裁。任期は23年4月8日まで。74歳。