検証~台風の爪痕「台風で危機対策見直し 札内川沿いの特養ホーム」
台風10号による豪雨で札内川に隣接する帯広市内の特別養護老人ホーム「太陽園」(大正町西1線96、杉野全由施設長、入所者125人)は一時停電し、川の氾濫の危険性が高まる中で危機に見舞われた。職員は暗闇の中で避難勧告が出たことも知らなかった。幸い大きな被害はなかったが、岩手県岩泉町の高齢者グループホームで入所者9人が亡くなる惨事が起きており対策の見直しが急がれる。
8月30日、同園西側を流れる札内川は氾濫危険水位に迫り、午後8時までに大正地区では大正農業者トレーニングセンターと帯広第七中学校に避難所が開設された。杉野施設長や道下昌和副施設長を含む夜勤の職員は泊まり込みで、非常用発電機や備蓄食料などを1階から2、3階に移動。同園そばの第2大川橋の上に行って直接川の様子を確認し、インターネットでも水位を頻繁にチェックした。
31日午前0時ごろ状況は一変した。停電が起きてインターネットやエレベーターが使えず、ナースコールも不通に。暗い建物内で職員が巡回を続ける中、認知症の女性が室内で転び足を骨折した。同園とその区域内のグループホームや生活支援ハウスを合わせた入所者は計約150人。車いす利用者や寝たきりなど歩行が困難な高齢者が多く、上階に避難させる際は少なくとも30人以上の職員が必要だったが、当時施設にいた職員は約10人だった。
午前2時半に避難勧告が発令され、市の広報車が大正地区も走行して避難を呼び掛けた。しかし同園では「風雨の音で全く聞こえなかった」(杉野施設長)。電気は午前4時半ごろ復旧した。その間、情報が届かないまま不安な夜を過ごし「全職員に緊急招集を掛けて入所者を上階に避難させることはできたが、川の状況や就寝中の入所者がいたために見送った。堤防を越えて建物が浸水したことを想像するとぞっとする」(同)と振り返る。
同園は市内に22カ所ある福祉避難所の一つに指定され、災害時に介助が必要な被災者らを受け入れる役割も果たす。しかし同園や区域内の施設は市の防災マップで「0・5メートル未満」「0・5~1メートル未満」「1~2メートル未満」の浸水予想範囲に含まれる。
同園では年に2回、地震や火事を想定した避難訓練を行っているが「岩手県の惨事は人ごとでない。水害を想定した訓練に早急に取り掛からなければ」(杉野施設長)と危機感を募らせる。避難情報の伝達の不備について市は「深夜の時間帯で一部の市民に情報が伝わらなかったことは反省すべき点。福祉施設での対応についても関係者が集まる場を設け、情報を共有して水害への備えを見直す必要がある」としている。(小縣大輝、安倍諒)