値上げか維持か、揺れた1年 個人店主たちの今
消費税が8%に引き上げられて4月1日で1年。十勝管内でも商店や飲食店はこの間、増税による消費者離れを懸念し、商品・サービスの値上げか価格維持かの間で揺れた。増税後も原材料の高騰は続き、電気料金値上げなど商売を取り巻く環境は厳しさを増す。値上げを決断した店、価格維持を貫く店の1年を追った。(澤村真理子、高津祐也)
電気料も負担大 やむなく値上げ
「値上げがどう影響するか分からない」。帯広市内の人気豚丼店「ぶた丼のとん田」(東6南16)は4月6日、2003年の創業以来初の値上げに踏み切る。苦渋の決断に、2代目の小野寺洋一店長(39)は不安を口にする。
13年4月に米国で豚流行性下痢(PED)がまん延し、豚肉の輸入価格が高騰、つられるように国産豚肉価格も上昇した。同店では増税後も商品価格を据え置いて様子を見たが、豚肉価格は一向に下がらず、持ち帰りの容器や箸袋など増税による細かな経費が積み重なっていった。
「地元客が気軽に食べられる手軽な料金」という先代の思いから700円を維持してきた豚丼は、780円となる。夏場にかけて観光客が増える中、ロースとバラの盛り合わせなど新メニューで顧客離れを食い止める構えで、「先代の思いを継ぎながら、消費者の要望に応えていきたい」と小野寺店長は前を向く。
昨年4月に価格据え置きを決めていた高橋まんじゅう屋(東9南5)も、同12月に全商品の値上げに踏み切った。大判焼きは20円、ソフトクリームやかき氷は50円値上げした。大判焼きは10年ぶり、ソフトクリームなどは20年ぶりの価格改定となった。
高橋道明店主(51)は「(昨年)4月に上げたいのが本音だったが、世の中の消費が鈍っているうちはできないと思った。資材も原材料も上がる中、最後の最後に電気代も上がってしまった」と苦しい胸の内を明かす。価格を据え置いたままでは、ボーナスの支給も厳しい状況だった。常連客からは「よく今まで頑張ったね」と好意的な声が多く寄せられたという。
客足鈍り影響大でも料金変えず
価格を据え置いた店も増税の余波を感じている。20年以上料金を変えていない理容としま(東9南5)の戸島久義店主(76)は「(顧客の)来店のサイクルが長くなっている。(自分の店の)値上げはしなくても増税の影響は出ている」と1年を振り返る。
電気料金値上げの負担も大きく、明るい照明の店内とは逆に、店から続く自宅ではLED電球1つで節約に励む。「現状維持でいけばいいが、売り上げが落ちることも考えなくては。切り詰めるところは切り詰めないと」と自らに言い聞かせるように語る。
1970年代の喫茶ブーム時に開店した喫茶店「樹雑(きざ)」(大通南22)も20年以上、コーヒー1杯350円を維持する。増税はコーヒー豆や食材の仕入れ値ばかりか、客足にも影響を与えている。光熱費などの経費節約のため、増税前は午後10時だった閉店時刻を3時間早めた。売り上げは増税前に比べ1割ほど落ちたが、マスターの千葉武さん(81)は「店を育ててくれた常連客に感謝の気持ちがある」と今後も価格に転嫁する考えはない。
2年後には消費税10%が迫る。先が見えない中、店主たちの葛藤は続く。