航大機墜落事故から3年 再発防止徹底を願う声強まる
航空大学校(紀勝幸理事長)帯広分校の訓練機が芽室町剣山の山中に墜落し、乗っていた教官と学生4人が死傷した事故から、28日で丸3年が経過した。この間、運輸安全委員会は、訓練機が雲への接近または進入したことで事故が発生した可能性があると指摘、度の過ぎた訓練を看過していた航大側に勧告を与えて原因調査を終了。航大側もこれを踏まえて安全対策を拡充し、事故後の対応は一区切りが付いた。ただ、十勝の空で訓練が再開される中、地域住民の中には今なお惨事の衝撃を引きずる姿もあり、再発防止への願いは強い。
事故をめぐっては、運輸安全委が事故から2年5カ月を経た昨年12月、当時の飛行状況を推定した上で事故調査報告書をまとめた。この中では、計器だけを頼りに飛行する訓練中、有視界飛行で禁じられた雲への接近または進入があったことが事故の直接的原因と結論付けた。
この違法な飛行の経緯について、訓練機が雲に接近したのは「機長が指示した可能性が高い」「(同乗の学生と教官が)機長に異論を唱えることができなかった」のが原因と指摘。航大に対しても「安全対策が十分機能しない中で訓練を行っていた」とし、度が過ぎた指導を見過ごす環境や、目上に異論を唱えにくい組織風土を問題視、安全管理体制を再構築するよう勧告した。
航大側は事故後、フライト後の学生アンケートなどを通じ、危険の一歩手前の状況が確認された場合に速やかに報告・分析するなどの複数の独自対策を導入。さらに、今年5月には運輸安全委の勧告も踏まえ、学生や教官、職員らが安全に関する情報を報告・共有する体制づくりと風土の醸成に努めるなどの再発防止策を打ち立てた。
こうした対策が講じられる中、訓練は再開されているものの、地域住民の中には同種事故の再発に不安を募らせる声もある。墜落現場に近い芽室町上美生地区に住む金井ツヤ子さん(79)は、いまだに「訓練機の飛ぶ音が聞こえてくると、つい不安な気持ちになってしまう」とこぼす。
金井さんは、事故後の訓練の在り方について特に問題を感じていない。ただ、当時は消防車や救急車が多数駆け付ける騒ぎとなり、4人死傷という惨事に胸を痛めた。「将来ある若者の犠牲が本当に悲しかった。だからこそ、もう二度と事故が起きてほしくない」と願う。
事故後、航空大は毎年7月28日、墜落現場付近で追悼式典を執り行う。事故後3年の今年も、28日午後1時から芽室町上美生公園に紀理事長や山宮真一分校長、在学生らが参列し、犠牲者に黙とうをささげるなどして再発防止を誓った。
3年前の事故は、パイロット養成現場特有の問題をあぶり出し、訓練体制や航空大の組織風土の改善を導いた。だが、学生と教官の4人の死傷を伴った事実は極めて重い。山宮分校長は事故の反省を踏まえてこう強調する。「さまざまな再発防止策を打ち立るだけでは駄目。二度と事故が起こらないために、これからが大事だと痛感している」。(杉原尚勝)
2011年7月28日、帯広空港を午前9時11分に離陸した訓練機が、外を見ずに計器だけを頼りに操縦する訓練中の同9時22分ごろ、剣山南斜面に墜落。機長の教官=当時(44)=と教育研究飛行の教官=同(45)=、学生=同(23)の3人が死亡し、操縦していた学生(26)がやけどなどの重傷を負った。帯広署は今年1月、機長が危険回避の措置を講じなかったことで墜落したと判断し、業務上過失致死傷と航空危険行為等処罰法違反の疑いで、機長の教官を容疑者死亡のまま釧路地検帯広支部に書類送致した。
◆航大機墜落事故について
・航大訓練機が墜落 3人が意識不明、学生1人救助-十勝毎日新聞電子版(2011/07/28)
・航大機墜落 機長ら3人死亡-十勝毎日新聞電子版(2011/07/29)
・山への接近、なぜ 航大訓練機墜落事故-十勝毎日新聞電子版(2011/07/29)
・航大機墜落事故 ベテラン操縦士・小枝さんに聞く-十勝毎日新聞電子版(2011/07/30)
・樹上に翼…40メートル離れて胴体 航大機墜落事故現場-十勝毎日新聞電子版(2011/07/31)
・航大機墜落事故関連記事-十勝毎日新聞電子版