人の気配「遊び場に新たなヒント」
2020年2月から、兵庫県豊岡市が主導する「ミュージシャン・イン・レジデンス・豊岡」というプロジェクトに参加している。ミュージシャンが豊岡市に滞在し、制作やライブなどの音楽活動をすることで、住民側に街の魅力を再確認してもらうというものだ。音楽だけに限らず、アートを通じてIターンやUターンを促進するという考え方は、今少しずつ広がっている。
縁もゆかりもない街からのオファーに最初は戸惑いもあったが、実際に始まってしまえばいろんなアイデアが浮かんできた。最新作『AVENUE』の撮影ロケ地を見つけたり、歌手になりたいという高校生と出会ったり、小さな街にも刺激はあふれている。新型コロナウイルスのまん延と重なり、そのアイデアが二転三転する中でも心が折れない背景には、やはり人との出会いが大きい。廃業していた老舗料亭「とゞ兵」を使って人が集まる遊び場を作り、新たな文化の発信拠点を生み出す小山俊和さんもその一人だ。
僕が豊岡を訪れると、いつも小山さんの周りには人がいる。そこには子ども連れの家族もいれば、学生のグループもいる。「とゞ兵」では人がその空間を形成しているように感じた。街にそういう場所があることがどんなに幸せか。大げさな場所である必要はなく、例えば僕にとっては帯広のライブハウス「REST」がそうだったように、人生を大きく変える出会いがそこで待っていたりもする。その時は気が付かなくても、後の糧となることもあるだろう。小山さんとそんな話を通じて仲良くなったことを覚えている。
「MIR豊岡」や「とゞ兵」、そして豊岡市がレーベルとなってリリースされた『Fallin’ Down』の先に「人の気配」を感じてほしい。
<Keishi Tanaka(タナカ・ケイシ)>
ミュージシャン。1982年大樹町生まれ。大樹小、大樹中、帯広柏葉高卒。バンド・リディムサウンターを経て、2012年にソロデビュー。