人の気配「『人気』は本気の取り組みから」
生まれ育った大樹町、青春を過ごした帯広市を出て、東京で音楽活動を始めてから今年でちょうど20年。そんな節目のタイミングに、この連載の話が舞い込んだことにも不思議な縁を感じつつ、全国でつながった縁について、ここに書き連ねていこうと思う。
20代前半、憧れの東京でライブすることがかない、そのステージを全国にも広げ始めた頃、福岡を拠点とする音楽仲間に「東京に出てくる気はないの?」と尋ねたことがある。まだインターネットが普及する前の話。その頃は「音楽をやるなら一度は東京」といった空気があったように思う。僕自身がそうだったように、東京にしかない刺激を吸い込む必要があると多くの人が思っていたはずだ。しかし、僕のその問いに対し、友人は「福岡でやることに意味を感じてるし、福岡じゃないと俺じゃなくなる」と言った。彼は自分もDJでありながら多くのパーティーを主催していた。今は「Tresol(トレソル)」というカフェバーを経営しながら、変わらずにパーティーを企画し、各地からミュージシャンやDJを呼び続けている。人と人、人と街をつなぐ仕事といってもよいだろう。
彼の返事は、それから僕の心に残り続けた。ライブツアーで全国各地を訪れるたびに、その街で輝く人たちに出会う。もちろん東京も含め、その場所で生きることに意味を感じ、本気で取り組んでいれば、やはりそこには自然と人の気配が漂うものである。それをちまたでは「人気」と呼ぶのかなと思ったり。それは周りに友達が多いとか、そういう類いではなく、たとえ静かに暮らしていても、である。
その福岡の友人が結婚したときに歌を作った。お祝いと感謝を込めて。タイトルは『あこがれ』。
<Keishi Tanaka(タナカ・ケイシ)>
ミュージシャン。1982年大樹町生まれ。大樹小、大樹中、帯広柏葉高卒。バンド・リディムサウンターを経て、2012年にソロデビュー。