生育マップとセンサを利用した 秋まき小麦の収量安定化
道総研 十勝農業試験場 研究部 農業システムグループ
1.背景と目的
秋まき小麦の幼穂形成期以降の追肥については、センサベース可変追肥技術が開発・実証されているが起生期では適用されていないため、他の作物で確立されたマップベース可変施肥技術を秋まき小麦起生期に適用した追肥体系の確立が求められている。そこで本研究では、衛星データを利用したマップベース可変施肥技術を秋まき小麦の起生期に適用し、幼穂形成期以降のセンサベース可変追肥と組み合わせた追肥体系による効果を明らかにする。
2.試験の方法
十勝およびオホーツク管内の現地圃場において人工衛星から取得される前作の生育マップから施肥マップを作成して施肥を実行する「マップべース可変施肥技術」を起生期に適用。幼穂形成期と止葉期は車載型の生育センサによる「センサベース可変施肥技術」を適用。可変施肥試験を実施した各圃場において収量調査をおこない、一律で施肥した試験区との比較を実施。
3.成果の概要
1)人工衛星により取得された NDVI データは、車載型生育センサ同様に圃場内の生育のばらつきを把握でき、圃場内の生育良否箇所が毎年同じ傾向にある場合は、前年以前の NDVI マップを秋まき小麦の起生期可変追肥に利用できる。ただし、NDVI は車載型生育センサの出力値より生育の差に対する変化量が小さいことを考慮して施肥量の増減割合を設定する(データ省略)。
2)起生期にマップベース可変追肥を適用した追肥体系では、圃場内における NDVI の変動係数が追肥の度に低下するとともに常に定量区より小さく推移し、生育が平準化する傾向にあることが確認された(図1)。
3)起生期に可変追肥を適用した体系では、圃場内において生育相対値が小さい箇所で定量区の穂数が少ないが可変区では定量区より穂数が増加する(図2)。また、圃場内の生育相対値が大きい箇所では、定量区で製品歩留まりが低下するが、可変区では製品歩留まりの低下が抑制される(図3)。
4)圃場内の生育不良箇所、良好箇所を含む調査点の平均収量を比較すると、可変追肥技術を起生期から適用することにより製品収量が6~18% 増加した(表1)。特に登熟不良年であった2018年や平均穂数が700本/m2を超えやや過剰であった2020年では、圃場内の生育相対値が大きい箇所における製品歩留まりの低下抑制効果が大きかったため、製品収量が大きく向上した。なお、タンパクは従来通り平準化する傾向が認められた。
以上のことから可変追肥技術を秋まき小麦の起生期から適用した追肥体系は、生育不良箇所の穂数増加による収量底上げと生育過剰箇所における製品歩留まりの低下抑制を両立する収量の安定化技術として有効である。
4.留意点
1)地域で推奨される追肥体系(追肥時期、施肥量)のもとで収量の安定化技術として活用する。
2)起生期に茎数が過少で増肥した箇所では、過度なタンパク上昇を抑制するため、止葉期の施肥量に留意する。
【用語の解説】
マップベース可変施肥:圃場内における場所毎の施肥量を指定した施肥マップ上の位置を GPS で認識し、マップに示された量の肥料を自動的に散布する技術
センサベース可変施肥:生育センサの値を基にリアルタイムで生育に応じた施肥量を散布する技術
詳しい内容については、次にお問い合わせください。
道総研十勝農業試験場 農業システムグループ
電話(0155)62-9835
E-mail:tokachi-agri@hro.or.jp