農に向き合う~農業経営部会会員紹介「芽室・尾藤農産」
1.雪室熟成で甘み増すじゃがいも
芽室町北西部の広大な畑で小麦、じゃがいも、大豆、長いもなどを生産する。耕作面積は120ヘクタール。東京ドーム25個分以上あり、大規模畑作経営が一般的な十勝農家の平均耕作面積の2.6倍に上る。曽祖父が明治年間に岐阜県から入植、1969年に法人化した。代表の尾藤光一さんが4代目として継承してから十数年の間に、離農した近隣農家から20ヘクタールずつ、3度引き継いで今の規模になった。
じゃがいもは年間1000トン生産し、うち600トンをカルビーへ供給、200トンを農協、残り200トンをスーパーやレストランへ出荷している。越冬したじゃがいもは、糖度が増して食味が良くなることから、雪を入れた倉庫に1~2年貯蔵した「雪室(ゆきむろ)熟成じゃがいも」を考案した。主に東京、大阪で多店舗展開する野菜を前面に打ち出したレストランや銀座、西麻布の高級レストランも使ってくれている。
2.30年前から微生物生かす土作り研究
尾藤さんは30年前から、多様な微生物が生きる土作りに情熱を傾け、収量の安定につなげることに成功している。同じ芽室町の肉牛牧場、大野ファームの大野泰裕社長に声を掛けられ、豪州で活動していた農業コンサルタント、エリック川辺博士の話を聞く機会を持ったのがきっかけだった。
芽室の若手農業者5人でSRU(Soil Research Union)を1990年に設立、与えすぎない施肥、足りない要素を補ってミネラルバランスが取れた土壌を実現しようと取り組んできた。「財布と環境に優しい低投入持続型」の施肥に賛同する農家は徐々に増え、現在、メンバーは全国の300戸近く(うち北海道270戸)に広がった。昨年には関東、九州の農家が加わった。
3.「三方良し」学び、人脈も構築
同友会に加入したのは2004年。農協青年部、芽室青年会議所の活動から離れて40歳代初めのころ、経営などをまた学ぶ場が欲しかった。近江商人の「売り手によし、買い手によし、世間によし」の「三方よし」の経営哲学にいたく共鳴したのも同友会が企画した講演だった。畑作農家として土に負担をかけない「環境によし」を世間によしと見立てている。
同友会では海外ミッションの担当として、11年から4年連続で、シンガポール視察団を企画、実行し、十勝の食材を使った料理を食べてもらう会に現地の有力者などを招待した。その後は北海道に来てもらうことも独自に企画、こうした活動が今にも生きる国内外の人脈の構築につながっている。
4.ワイナリーは土作りの総決算
尾藤さんは6年前に登場した「芽室産ワイン」構想の実現に、役場や金融機関の支援を得ながら努力してきた。自身にとってそれは「土作りの総決算」。寒冷地では難しいとされるブドウの栽培を土のバランスを整えることによって達成しようとしている。社長を務める「めむろワイナリー」は、今春から初めて自家醸造のワインの販売を始める。十勝の農産物がなぜおいしいのかを本当に世界に知ってもらえるのは、「ここからワインが生まれて、消費者においしいと認められた時」。この地域に来てワインを飲みたいという交流人口が増えることが、より良い町作りにつながっていくと信じている。
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