大切な日には乾杯を~人の気配
先日、子供が生まれて僕も父親になった。ひとしきりめでたあと、生まれたばかりのわが子に「またあした来るからね」と言い残して病院を後にした。夕方、誰かと酒を飲みたくなったが、わざわざ誰かを誘うというのも大げさだなと思っていたときに、とあるカフェのことを思い出した。クラフトビールも置いてあるその店で何杯か飲んで今日という日を終える。それくらいがちょうど良かった。僕にとっての人生最良の日に、一緒に乾杯してくれたのがその店のオーナー、木戸孝典さんである。
東京で一番有名な山である高尾山の近く、高尾駅から歩いて行けるところに「MY HOME」というカフェがある。3年ほど前に初めて訪れた際、僕の音楽を聴いていると言って声をかけてくれた木戸さんと仲良くなり、それ以降、機会があれば立ち寄っているお気に入りのお店だ。「青のサーカス」のミュージックビデオでは撮影もさせてもらった。
「高尾には人が集まる個人のカフェが少なかったので自分で作りました」と木戸さんから聞いたことがある。その言葉に呼応するように、大きな窓から見える店内にはいつも人がいて、立ち話をしている。飲食を目的としながら、そこで生まれる新しい出会いがまた次につながっているように思う。その雰囲気が好きだ。そして僕もその渦中にいるひとり。とてもうれしく、心地よく、心強い。まさに人の気配を感じる空間なのだ。
話上手な友人に人の気配を感じることは多いかもしれないが、会話が生まれる空間を作り出している友人にも僕は人の気配を感じる。たとえ本人が無口であろうと、その空間の大切さを知っている人とは波長が合う。『I’ll Be There』でも歌っているように、そこでの乾杯を繰り返してこれからも自分らしく進んでいく。僕も、きっと木戸さんも。
<Keishi Tanaka(タナカ・ケイシ)>
ミュージシャン。1982年大樹町生まれ。帯広柏葉高卒。Riddim Saunterを解散後、ソロ名義での活動を続け、V6への楽曲提供も話題となる。ニューアルバム『Like A Diary』のリリースツアー北海道編は、6月7日札幌、8日東川、アコースティックで開催。