日本あんこ協会にしい会長インタビュー
どら焼き、大福、パン、ペーストにアイス…。2010年代後半から全国で「あんこブーム」が続いている。火付け役が日本あんこ協会(本部東京)のにしいあんこ(本名・西井成弘)会長だ。あんこの主原料・小豆は国産回帰が進みつつある一方で、道内作付けは減少傾向。増加には産地の理解や消費の拡大・安定が急がれる。「あんバサダー」でもある西井氏に、「あんこ」が秘める可能性や協会設立の経緯、産地十勝への期待などを聞いた。
(聞き手・植木康則)
-あんこ好きになったきっかけは。
「目覚めた」のが、小学2年生の時、母親がおやつに作ってくれた手づくりの「あん巻き」。余りに衝撃的に美味し過ぎて、それ以来毎日「あん巻き作って」と母親にせがみました。
-協会設立の背景は。
2005年に社会人となり、20代半ばで起業しましたが、大きな借金を作ってしまった。すべてが嫌になり、世の中を信じられなくなっていました。そんな時、父親が僕の状況を聞いて、段ボールに米と一緒にスーパーで買ったどら焼きや羊羹、あんこなど送ってくれた。父が、小さい時にあんこを食べて喜んでた姿をずっと覚えててくれて、「なんか結構大変そうやけど、これでも食って元気だせ」って。
もう感動して、ボロボロ泣きながらあんこを食べて。味覚というより「心の再会」でした。すべてを失った自分にも理解者がいたことに初めて気づき、再起を誓いました。
社会人として一からやり直すべく再就職。5年間勤め、その後、二度目の独立起業。あんこに救われた思いを胸に、あんこの魅力を伝えたいと思い協会を設立しました。
-活動量が増えています。
そうですね。17人から始まって、4年ぐらいで8500人の方が、協会員になってくださいました。百貨店や商業施設、自治体で新しくあんこの催事をするので協力をという声が全国各地から掛かるようになりました。健康ブームの中でもあんこが注目されていることもあると思います。
活動の1つとして地域活性化にも貢献しています。最近だと倉敷市主催で、備中の7市2町であんこスイーツを扱う27店舗が連携して取り組みました。協会がイベントを監修しました。コロナ以降、「あんこ夜会」も主催。全国のあんバサダーがオンライン上に集い、自分の好きなあんこスイーツなどを語り合う。地方の情報交換を、あんこ起点でやっていく試みです。
-今注目のあんこは。
スパイスとあんこをいっしょにした商品が出始めています。カルダモンやシナモン、ブラックペッパーなど、あんこに合うものが多く、これからもっと可能性が広がると思います。
-あんこのおいしさが引き立つ組み合わせは。
あんことお酒はフルーティーな甘口の日本酒などが合いますが、辛口に羊羹も合う。自分で手詰めする最中のサクサクとスパークリング日本酒のシュワシュワが食感的に良い。どら焼きとジンジャーコーヒーも合います。乳製品とあんこ、牛乳にチーズ、ヨーグルト。十勝だけで完結する組み合わせがあるのはすごいですね。
-十勝へメッセージを。
産地で「あんこ祭り」をぜひ。また産地同士でつながるのも良い。十勝・丹波・備中の「日本三大小豆産地」から、あんこの魅力を伝えていけると良いと思う。
デジタル・ネット社会の中で、新しいものばかりを追いかけ、人の温もりや余白、人の心が介在する余地がなくなってきている。あんこはそれを取り戻すことのできる食べ物だと思っています。私たちが生きていく上で、繋がりや、駄目でもいつでも帰れる場所があることが重要だと思う。あんこを食べたら「昔おばあちゃんが炊いてくれた味」とか「家族みんなで食べた地元の饅頭」とか、原体験を思い出して少し優しくなれたり、自分にも温かい家族がいたことを思い出せたり。あんこが秘める力に気づかされました。あんこは「帰れる場所」なんです。
あんこはただの食べ物ではなく、もっと日本人の精神的な支えになれる可能性がある。小豆はあんこの母。生産者や産地の力になれるところがあれば、私たちにも協力させてほしいです。
<にしいあんこ>
2018年10月、あんこ普及振興を目的とした協会団体「日本あんこ協会」を創設。現会長。協会理念に「あんこを通じた世界平和の実現」を掲げ、主幹事業としてあんこによる地域振興や情操教育を行う。同協会員は全国8600人を超え、今のあんこブームの火付け役とも称される。1982年生まれ、奈良県出身。40歳。
日本あんこ協会にしい会長インタビュー