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農に向き合う~農業経営部会会員紹介「幕別・小笠原農園」

小笠原保さん(金野和彦撮影)

1.有機野菜にかじ切る
 100年以上続く農場の3代目経営者として2012年に就農した。幕別町役場職員時代に農政などを担当し、農業経営者らと知遇を得ることで農業や食に対する関心が湧いた。以前の畑作4品中心から、収量や品質への不安はあっても野菜の有機農業へとかじを切った。引き継いだ耕作地13ヘクタールはこれまでに18ヘクタールへまで拡大。縮小していたレタスをはじめ、トウモロコシやリーキ(西洋ネギ)、ジャガイモが今は経営の柱に育った。

 「有機」へのこだわりでは、有機JAS認証を守っており、化学肥料・農薬の使用を避けることを基本とし、環境に与える負荷が少ない方法で育てている。野菜類の一方で、小麦や豆類(大豆、小豆)も半分(9ヘクタール)の面積で育てる。

 ぼかし肥料(油かすや米ぬかなど有機肥料に土やもみ殻を加えて発酵させた肥料)や自然由来の農薬を使う。トウモロコシなどを緑肥(育てた作物を土にそのまますき込むことで肥料分にし、土壌改良に役立てる)とし、地中の微生物を増やしつつ、線虫など畑の害虫の抑制につなげている。

2.飛び込み営業、シェフ口コミの販路開拓
 味で勝負する野菜を売り込もうと、飛び込み営業で試食を頼み販路開拓。気に入ってくれたシェフらの口コミが加わって徐々にその先を広げた。極力肥料を抑えて育てたリーキは「太さ、白さ、甘み」が売りだと自負する。札幌グランドホテルから好評を得て、農場名の表示付で使われるようになった。リーキやレタスは道内の百貨店、スーパーに広がり、昨年からイオン北海道への出荷も始まった。

 食べる人たちと直接つながり、得られる反響をやりがいにしたいと就農翌年から夏季限定で野菜の直売所「ひより」も運営。店の魅力を高めようと、手間暇がかかってもトマトやナス、キュウリ、大根、ニンジンなど多彩な野菜を30品目ほど作る。地元の常連さんを中心に人気を集めてきた。

 昨年には、帯広市内のカフェ「菜(sai)」のシェフが参画し、直売所と合体させたやさい屋カフェ「菜びより」を農園のそばにオープンした。農家らしく、野菜が取れない冬季は休む。小笠原さんは「野菜の生産地でもりもり食べて欲しい。添え物ではなく、野菜が主役になる店」と思い入れを語る。

 約20席の店は、常連さんからその友人たちへと口コミで知られるようになり、忙しいときにはランチタイムに3回転する。夕方4時までのカフェタイムにはきなこや黒豆のシフォンケーキ、ニンジンのケーキなど野菜を素材にしたスイーツを提供する。

3.共通するのは「地域のために」
 北海道中小企業家同友会とかち支部の農業経営部会に 入会したのは2014年初め。野菜の販路開拓もあって、当初は売れ筋商品や商品開発の勉強会に積極的に参加した。メリットは「刺激」に尽きると小笠原さん。忙しいと足が重くなることもあったが、行けばいつも得るものがあった。

 「会員の皆さんに共通するのは、常に地域や社会をどう良くできるかの視点」。自己、自社の利益第一の行動をしていない姿勢に驚き、触発された。小笠原さんも「地域の発展がなければ自分たちの発展もない。農業ができることはきっとある」と信じるようになった。

4.誰もが輝ける農園に
 小笠原農園の野菜の出荷は無選別だ。色や形がきれいで大きさが一定の範囲内の「規格」から外れた品は、形が悪くて割れていてもうま味や品質は同じ。例えばジャガイモやタマネギ 、ニンジンは規格外が1~2割になることもある。

 規格にこだわると、農家や小売りは選別せねばならず、結果、消費者も高いモノを買うことになる。小笠原さんは「誰も得をしない。食品ロスを避けるためにも、規格にとらわれない売り方をもっと広げたい」と熱がこもる。

 「老若男女、誰もが輝ける農園に」という夢もある。家族と社員、パートや不定期で手伝ってくれる人は10人前後。今秋は将来の雇用につなげたいと障害者の人たちにも実習に来てもらった。「どんな人にも得手不得手がある。仕事を細分化すれば、あらゆる個人が得意なことを担ってもらえる。誰もが同じように活躍してもらえたら」と願う。


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