農に向き合う~農業経営部会会員紹介「幕別・大地」
1.牛舎の建築にワイン造りも
牛舎や農産物の貯蔵庫などの農業用施設、競走馬の厩舎(きゅうしゃ)を建築している。20年以上、建設業に従事してきた林秀康会長(67)が2002年に設立し、帯広市内に本社、芽室町内に工場を開設。工場が手狭になったため、帯広市に本社を残し、2010年に幕別町内に事務所と工場を移転した。
2006年からは池田町の観光宿泊施設「十勝まきばの家」を運営。5年前に立ち上げたグループ会社の農業生産法人「Far夢 楽縁」(池田町)ではブドウやトマトを栽培し、トマトはジュースなどに加工している。今年9月には、まきばの家で町内初となる民間のワイン醸造施設を開設し、収穫した「清美」、「山幸」、「清舞」、「ナイヤガラ」の4品種を使って、製造を始めた。
2.口コミで販路拡大
使い勝手の良い施設をいかに低コストで建てられるかが重要。自社で鉄骨の加工ができるためコストの削減になり、工場を持っていることが顧客からの信頼にもつながっている。創業当時、社員たちは建物を建てた経験もない「ど素人」で、お客さんに怒られることばかりだった。それでも客が他の農家さんを紹介してくれて、今はほとんど宣伝をせず、口コミで広まっている。
機能的なデザインを取り入れながら農業用施設を施工するサービス「デザイナーズ・ファーム」を2012年から提供し始めた。十勝の農家はあまり施設にこだわりがない。馬産地である日高地方で仕事をしていると、馬を飼う施設は結構なお金を掛けている。後継者不足という問題も抱えている中、働く環境を良くするべきという考えで建築デザイナーと手を組んだ。実際にデザイナーズ・ファームを建てた農家からは「視察が増えた」「胸を張って迎えることができる」とうれしい声をもらう。最近は働く環境を良くしようと気を遣っている農家が増えてきている。
3.農業者の目線を持てるように
農業経営部会に加入したのは2017年。どこの企業、農家の経営者も同じ立場で、対等に話せることが同友会の良さ。これまではお客さんでしかなかった農業者の価値観を同じ立場から見られるようになったことが本業に生かされている。林会長は、「営業をしていると言葉を飾ってしまうが、農家の人たちは純粋で、本音で話せる人たちばかり。独特の世界観に衝撃を受けることもある」という。
とかち支部の中で、林会長は「とかち地サイダー研究会」を中心に立って発足させ、地元の素材を使ったご当地サイダーを開発し、地域活性化につなげている。「魅力のある仕事ができて、同友会に入って私の人生は違うものになった」と話す。
4.今後は全道へ展開
「会社を存続するためには、世の中にとって常に必要とされなくてはならない」と林会長。今は十勝と日高、オホーツクエリアを中心に受注しているが、人口減少が進む中、限られた地域内で市場が拡大することは見込めない。農業施設の建築を専門にしている企業は十勝管外には少ないことから、今後はこれまで培ったノウハウを生かし、全道展開を目指している。
観光事業においては、最終的に田舎暮らしをしたいという自分の小さな夢を求めて、まきばの家の運営を始め、農業を核にしたコミュニティーづくりをしてきた。今年7月にはワイン樽を使ったサウナがまきばの家に完成。他にもワイナリーを開設するなど、地域の特性や時代のニーズに合った手法で、新たな事業への挑戦を続けている。
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