流された牛 今も現役 濁流から11頭救出 清水の白木牧場 豪雨災害から5年
【清水】清水町御影の酪農家白木邦彦さん(67)は、2016年8月の台風10号豪雨災害で牧場が被災し、子牛16頭が濁流の芽室川に流されたが、11頭が救出された。10キロ下流の芽室橋の下で見つかった1頭など、生き延びた中には今も“現役”で搾乳する牛もいて、白木さんは「人間では考えられないこと。奇跡だった」と振り返る。
「奇跡だった」元気に成長
白木さんは5年前の8月30日夜、牧場横を流れる芽室川が増水したため、近くの親戚の元へ避難した。翌朝、自宅に戻ると「家の周りが明るい」と感じた。川が敷地を削って、あるはずの車庫や倉庫がなくなっていた。
子牛を飼っていた施設に行くと、流れが基礎部分を削っている最中だった。急いで牛を避難させたが、16頭が流された。「危なくて助けようにも助け切れなかった」といい、目の前で激流にのまれた牛もいた。
川の水が引き始めると、白木さんの電話に次々と牛の目撃情報が入った。中州で動けなくなったり、畑を走り回っていたりで、親戚の力を借りながら連れ戻した。その中の1頭が、芽室橋の下で見つかった耳標「1030番」。9月5日、連絡を受けた宮坂建設工業(帯広)がブルドーザーで川の流れを一時的に変え、牛を捕まえてクレーンでつり上げた。流されてから6日たっていた。
行方不明と死んでいた5頭を除く11頭が戻った。被災したストレスを心配したが、その後は多くが元気に育って親牛になった。白木さんは「一緒に流されたトラクター4台が今も見つからないほどの濁流だった。11頭も生きていたのは本当に奇跡みたいなもの」と話し、その生命力の強さに感心する。
白木さんは台風前から、酪農は自分の代限りと決めていて、当時200頭いた牛は現在は50頭ほどになった。あの豪雨は「思い出したくない」経験。救出された牛も特別扱いはしていない。橋の下から助け出された1030番も同じで、「6、7歳で年だから多く搾るつもりはないけど、出るうちは搾りたい」と話している。(安田義教)
芽室川河川敷の牛救出(2016年9月5日撮影)