自然「生態の『宝庫』東大雪」 まちマイ上士幌編
自然環境に恵まれ、動物や昆虫、植物などが数多く生息・生育する上士幌。それらを一堂にまとめたのが「ひがし大雪自然館」だ。ここには人、収蔵品ともに宝物がたくさんある。最終回では「自然」にスポットを当て上士幌の魅力に迫る。
昆虫展示光る工夫 須田修さん(52)
町教委生涯学習課長の須田修さん(52)は昨年の異動で現職に就いた。それまでは町立ひがし大雪博物館(2012年閉館)、現在のひがし大雪自然館で、学芸員として勤務した。専門は「昆虫」。美唄市生まれ、空知管内奈井江町育ち。遊び場は自然豊かな裏山、幼い頃からずっと昆虫を追いかけてきたという。
帯広畜産大学畜産環境学科に在籍した当時は、オサムシやシデムシなど羽の発達しない地上歩行性昆虫の研究に励んだ。大学院を卒業し、5年間国家公務員を務めた後、町立ひがし大雪博物館の学芸員に転職した。自然の中に身を置きながら、学芸員として大好きな昆虫に携わる仕事に巡りあった。
同自然館には、準備段階から企画に加わった。昆虫の手足に特化し、その特徴が大きく分かりやすく見ることができる壁に埋め込まれた「のぞき穴」など、子供の視点に着目したさまざまなアイデアを提案し、採用された。「町の財産である自然館を活性させるため、人との接点を大切にいろんな形で活用したい」。生涯学習の視点で“宝物の詰まったとりで”である館内を少年のように見つめ強調した。(河崎真以子)
コケの美伝道師 乙幡(おっぱた)康之さん(32)
大雪国立公園、それも十勝側は「コケ」の生息が盛んなのだという。自然度が高い証拠。見事に苔(こけ)むした景観は、純粋に美しく全国でも有数の場所という。独自の視点でこの地の魅力を語る。
国内だけで1800種が確認されているコケ類。自身、20歳から採取を始め、これまで集めた標本は2000点に上る。「当初は地形の研究をしていたが、調査で訪れた阿武隈山地(福島)の苔むした景観に感動、興味を持つようになり、この道に進んだ。道内では研究者が片手に満たないし、まだ未開拓な部分が多い」と力説する。
東京都武蔵村山市出身。高校時代に出会った博物館学芸員の知識の深さに感銘したが、一度は民間企業に就職。ただ、夢を捨てきれず、6年前に町の「地域おこし協力隊」として旧ひがし大雪博物館に勤務し、昨年4月職員で採用された。
研究の専門性を生かし、東大雪の魅力アップにも貢献。鹿追・上士幌の両町にまたがる然別湖周辺の風穴地帯などが、日本蘚苔(せんたい)類学会による「日本の貴重なコケの森」に認定された際、その実現のため奔走した。「形や色の違い、美しさに単純にひかれる。上士幌で育つ子供たちにもその感動を伝えたい」。2歳になる一児の父親らしい笑顔で話した。(酒井花)
展示室の裏 眠る標本・剥製 館内に計5万点超
動物や昆虫の剥製や標本を展示する「ひがし大雪自然館」。館内の展示物は、東大雪に生息するものから外国の希少種まで約5200点に及ぶ。だが、実はその10倍がバックヤードに存在している。
来館者の目に留まりにくい館内の一角。関係者以外は立ち入り禁止のゾーンには、ヒグマやエゾシカ、ウサギや鳥など大小さまざまな剥製が所狭しと並ぶ。多くは、学芸員が事故で死んだ動物たちを引き取り、剥製にして再び“命”を吹き込んだものだ。
ポーズや表情、状態が良いものは表舞台の展示物に。一方、バックヤードにあるものは「痩せすぎたり鼻が長くなった失敗作」(同館)という。だが、素人目には判断がつかないほどリアルな出来栄え。眼光は鋭く、今にも動きだしそうだ。東大雪に生息する動物を調査するための貴重な資料として収蔵されている。
最も多いのがチョウやガの標本でその数5万点。中でも、ウスバキチョウ、ダイセツタカネヒカゲなどの天然記念物、購入価格250万円のブーゲンビルトリバネアゲハは特に目を引く。国内外のコレクターから購入したり、違法採取の個体の引き受けを警察から依頼されたものまでさまざまだ。“裏舞台”には、収蔵物の豊富さを裏付ける魅力が隠されていた。(米澤愛)
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