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【WSJ】インドの巨大企業依存リスク、米国での贈賄疑惑で露呈

サガル・アダニ氏(写真)とアダニ会長は証券詐欺などの罪で米司法省に起訴された
Photo:Deepti Asthana for WSJ

経済力の集中による代償も
 インドの複合企業アダニ・グループのゴータム・アダニ会長(62)ら幹部が贈賄疑惑で米国で起訴されたことを受け、10年にわたるモディ政権下で定着した経済モデルの負の側面が浮かび上がっている。このモデルは、政治家とのつながりを持つ少数の起業家が巨額の富を築くことを可能にしたが、その代償がインドに跳ね返っている。

 エコノミストや政策専門家によると、ナレンドラ・モディ首相は「ナショナル・チャンピオン(国を代表する大手企業)」を後押しし、少数のコングロマリット(複合企業)が経済の幅広い分野を牛耳ることを認めてきた。

 これらの企業は、インドの成長を促すために必要不可欠な大規模インフラプロジェクト(道路の建設から高速通信網の展開まで)の担い手になり得る。しかしエコノミストらは、経済力の集中が極端に進んだ結果、他の企業が締め出され、民間投資全般が圧迫されていると指摘する。

 アダニ・グループは、モディ氏と近い関係にあるアダニ会長が創業し、港湾から石炭、再生可能エネルギーに至る一大帝国を築き上げた。しかし先週、米司法省がアダニ会長らについて、インドで太陽光発電事業を受注する見返りに2億5000万ドル(約378億円)規模の賄賂を贈る策略を指揮した罪で起訴した。これを受けてグループ各社の株価は急落し、時価総額を500億ドル(約7兆5800億円)余り失った。

 アダニ会長と甥(おい)のサガル・アダニ氏は、投資家から資金を調達するために自社の汚職対策について虚偽の説明をしたとして、証券詐欺と2件の詐欺共謀の罪で起訴された。米証券取引委員会(SEC)も、インド国籍の両氏に対して民事訴訟を起こした。

 アダニ・グループは不正行為を一切否定している。コメント要請には応じなかった。

 疑惑の渦中にある再生可能エネルギー会社アダニ・グリーン・エナジーに約20%出資するフランスのエネルギー大手トタルエナジーズは、アダニ関連事業への追加投資を一時停止すると発表した。米政府の開発機関は、アダニがスリランカで開発中の港湾施設への投資計画を見直している。一方、ケニアはアダニ・グループによる主要空港の拡張計画を中止した。格付け会社はグループの一部社債の格付け見通しを引き下げた。

 今回の起訴により、中国経済の減速に伴い投資家の関心が近年高まっているインドの商慣行のイメージが悪化した。インドの2023年度(23年4月~24年3月)の成長率は8%を超えたが、その一因は、政府が民間大手を通じて行ったインフラ支出にあった。

 インドの富と格差に関する著書「The Billionaire Raj(富豪のラージ)」があるジェームズ・クラブトリー氏は、「モディ首相とその周辺が開発事業を望む場合、市場に任せて進める『西欧モデル』か、政府が巨大複合企業を優遇して開発目標を達成する『指示モデル』の選択肢がある」と話す。「長期的には、感応度も効率性も低い巨大企業を生み出すリスクがある」

 インドの規制当局は、こうした巨大複合企業が有力な意思決定者と密接な関係にあることを認識しつつ慎重に対応してきた。しかし、アダニ・グループは国外で投資を募ることで、米規制当局の精査の対象となった。

 インド首相府はコメント要請に応じなかった。

 アダニ会長は、モディ氏の出身地でもあるインド北西部グジャラート州で生まれた。5人きょうだいの末っ子として、同州アーメダバードで育った。家族は商品取引に携わっていた。10代で学校を中退すると、ダイヤモンド市場で働くためムンバイに移った。1990年代に家族で輸出会社を設立し、すぐに港湾開発に乗り出した。

 アダニ会長はモディ氏の政治キャリアの初期から、同氏の最も野心的な政策目標において重要な役割を果たしてきた。モディ氏がグジャラート州首相を務めていた時期、そして2014年に首相に就任した後も、アダニ会長の企業は港湾・空港の近代化と拡張、さらに経済を動かす燃料の輸入で当局と緊密に連携してきた。

 モディ氏の経済ビジョンを支える他の主要プレーヤーには、複合企業リライアンス・インダストリーズなどもいる。同社のムケシュ・アンバニ会長は、インド最大の富豪の座をアダニ会長と争っている。450億ドル以上を投じて通信ネットワークを構築し、国内のデータ通信コストを引き下げたリライアンスは、石油化学、繊維、小売りの大手でもあり、再生可能エネルギーにも数十億ドルを投資する計画だ。

 インドで最も歴史のある複合企業であるタタ・グループは、国営航空会社だったエア・インディアを2021年に傘下に収め、最近では航空業界で過去最大級となる航空機発注を行った。茶葉から鉄鋼、ソフトウエアまで手掛けるタタは電気自動車(EV)も生産し、防衛製造分野にも事業を拡大している。

 インド準備銀行(中央銀行)の副総裁を務めたビラル・アチャリャ氏によると、インドの5大複合企業(金融セクターを除く売上高または資産で定義されるトップ産業グループ)は、2016~21年に多くのセクターで市場シェアを劇的に拡大した。アダニ・グループをはじめとする5大複合企業は現在、通信部門で売り上げの84%、小売り部門で65%、建設・土木部門で42%を占めている。

 インド商科大学院のカビル・ラマチャンドラン教授は、企業と政治家の密接なつながりについて、事業展開に必要な多数の許可を得るために企業が政治的コネを利用していた、いわゆる「ライセンス・ラージ」時代にさかのぼると指摘した。

 この慣行は1991年のインド経済自由化の後も続いた。コネのある実業家は、多くの輸入品に高関税を課すといった自身に有利な貿易政策を求め、当局との事業契約を確保した。

 ラマチャンドラン氏は「全てのルールを歪(ゆが)め、全ての政策を自分に有利な形に作る」と述べた。

グジャラート州にあるアダニの太陽光発電所
Photo:Deepti Asthana for WSJ


 アダニ会長の富は会社の業績と共に成長した。2022年9月、同氏は一時的に米アマゾン・ドット・コムの創業者ジェフ・ベゾス氏を抜いて世界2位の富豪となった。当時の個人資産は約1500億ドルと推定された。

 アダニ・グループを巡っては、空売りで知られる米投資会社ヒンデンブルグ・リサーチが昨年1月、株価操作と不正会計を行っていると主張し、グループ各社は数百億ドルの時価総額を失った。だが、アダニ・グループは疑惑を否定し、株価はすぐに回復していた。(2024年11月29日付、BY TRIPTI LAHIRI)


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