犬との散歩 再び日課に 新得で車転落 小笹さんの妻多美子さん
新得で犠牲 小笹さんの妻多美子さん
愛犬行方不明、迷子引き取る
【新得】台風10号による大雨被害で車が川に転落し、帰らぬ人となった小笹義夫さん(享年73)。初七日を迎えた6日、妻多美子さん(69)は1匹の犬と暮らし始めた。心の傷は癒えないが「一人でいるより少しは寂しさが紛れるから」。義夫さんとともに濁流に流された愛犬りゅう太の代わりに。(松村智裕)
8月30日午後6時。多美子さんは義夫さんより一足早くパンケシントク川に架かる神社橋を渡り、新得小学校に避難していた。自宅は橋から歩いて数分の場所。「近所で犬を飼っている他のところも男性は家に残っていました」
同31日午前1時半すぎ、たもとが崩落した神社橋から軽乗用車が転落するのを住民が目撃した。それから、多美子さんが義夫さんの声を再び聞くことはなかった。
「もしかしたら、あなたの犬かもしれません」。音更町木野東に住む見知らぬ人から電話があった。新聞報道を見て、「りゅう太ではないか」と川岸にいた犬の特徴を伝えてくれた。多美子さんは急いで現地に向かったが、別の犬だった。それでも「保健所に連れていかれたらかわいそうだから」と預かることにした。
子宝に恵まれなかった小笹さん夫妻にとって、柴犬のりゅう太は息子も同然だった。約10年飼っていた初代が亡くなり、2代目として2005年春に生後5カ月から飼い始めた。義夫さんは得意の日曜大工で犬小屋を作製。多美子さんは1日に2回、義夫さんは3回も散歩に連れて歩いた。気付けばりゅう太は11歳になっていた。
あの日から1週間が経過したが多美子さんは「まだ信じられない」と話す。新得町出身同士で1969年に結婚。あと3年で金婚式だった。「好き同士で結婚して、けんかもしたけれど、飽きられずに今までやってきたのに」。周囲に支えられて通夜、告別式、初七日を終えると、一人でいる時間を実感するようになった。「頼れる人がいなくなった。全部自分でやらなくては」。心に空いた穴が表情を曇らせた。
新しいパートナーは、なじみのない犬小屋や周囲の様子に落ち着かないようだ。「あらあら、こんなところにおしっこして。りゅう太だったらそんなことしないのに」。そう言う多美子さんに少し笑顔がのぞいた。
犬との散歩が再び日課となった。「当分保護して、元の飼い主が見つからなければ、りゅう太と名前を付けようと思っています」