農業界では珍しい 従業員の夫婦が事業承継 さらべつ和牛の美郷牧場
【更別】更別村で唯一、和牛を肥育する美郷牧場(村上更別)を、十勝管外から移住した佐藤亮介さん(31)・春佳さん(31)夫婦が5月に引き継いだ。経営していた富永章嗣さん(76)・洋子さん(76)夫婦は後継者がおらず、従業員だった佐藤さん夫婦に事業を承継。関係者によれば、農業分野では子どもや親族以外への事業承継は珍しいという。代表の亮介さんは「『さらべつ和牛』のブランドをこれからも守っていきたい」と話している。(松村智裕)
同牧場は2003年創業。当初は和牛と乳牛を飼育していたが、現在は和牛のみ約170頭を抱え、繁殖から肥育まで一貫して生産している。
江別市出身の亮介さんは札幌工業高を卒業後に種苗会社に就職。そこで同僚として春佳さん(川崎市出身)と知り合った。その後、亮介さんは苫小牧市、春佳さんは空知管内長沼町で勤めていたが、北大、同大学院で畜産を学んだ春佳さんは「以前から肉牛農家に興味があった」。
交際していた2人は18年に札幌で開かれた就農フェアで富永さんを紹介され、牧場の見学や研修を体験。富永さんが跡継ぎを探していることを知った。2人は「後継の可能性があるなら」と結婚し会社を退職。村農業担い手育成センターなどの協力を経て、20年7月から1年間、同牧場で研修に励み、その後正式に雇用された。「富永さんは聞けば何でも教えてくれた」と亮介さん。富永さんも「2人は心構えが違った。引き継いでくれるなら彼らしかいないと思った」と肉牛生産のノウハウを一から伝えた。
株式取得などを行う従業員承継は、同センターやJAさらべつ、日本政策金融公庫帯広支店などが地域一体で支援した。富永さんは「若い人のセンスで自由にやってほしい」とし、従業員として引き続き佐藤さん夫婦をサポートしている。
佐藤さん夫婦の当面の目標は、27年に十勝で開かれる「全国和牛能力共進会(和牛全共)」への出場だ。同牧場は17年宮城大会の肉牛部門、22年鹿児島大会の種牛部門でともに優等賞を受賞。22年当時、2人は従業員だっただけに「次は牧場主として育てた牛を全国で評価してほしい」と意気込む。