「藤丸さん」目に焼き付け 最後の営業、店内万感
百貨店・藤丸が最後の日を迎えた31日、店舗前には開店前から行列ができ、開店と同時に常連客らはそれぞれの思い出を胸に店内を巡った。各フロアではそこかしこで従業員と客が感謝の言葉を交わし、帯広・十勝の象徴の復活に期待を寄せながら、別れを告げた。(藤丸閉店取材班)
★勝毎電子版の特設ページ「ありがとう藤丸さん」
◇8時すぎ一番乗り「最後の朝」写真に
最後の日の一番乗りとなったのは、帯広市内の会社員関口昌利さん(47)。到着時にスマートフォンに残した藤丸の写真の撮影時刻は、午前8時16分だった。
藤丸は子どもの頃から数え切れないほど訪れた場所。「デパートが帯広からなくなってしまうのが残念。特に最近のにぎわっている様子を新聞やニュースで見ると…」と悔しさをにじませた。
初めて現店舗を訪れたとき、ガラス張りのエレベーターや、7階レストラン街の赤や青などに光る5本の曲線を描いた照明に感激した。「きょうは藤丸を目に焼き付けたい。夜にまた来ようかな」と別れを惜しんでいた。
◇「これからどこで」味惜しみ80人が列
食料品などを扱う地下1階フロアは開店直後から、お目当ての品々を買う人たちで混雑。中でも「かま栄」の売り場には、80人ほどが並んだ。帯広市の無職酒井孝悦さん(73)は午前9時20分に来店し、「ひら天」などを購入。「これからは札幌か小樽で買うことになってしまう。食べたい時に食べられなくなるのは寂しい」と漏らした。
藤丸は「かま栄」の商品を求める人たちを、開店10分前から店内に誘導した。並んでいた女性(61)は「寒いので助かる。最後まで優しいのは藤丸さんらしい」と話した。
◇「ひな人形ここで」客の言葉に感謝
ひな人形や五月人形約50セットが並ぶ6階の販売会場では、この日も多くの客が子や孫を思いながら品定めしていた。
例年、五月人形は3月から販売を開始するが、今年は閉店に合わせ、ひな人形と同時に昨年12月上旬から売り場を展開。従来は大安の日や土・日曜に買う人がいる程度だったが、今年は1日1セットのペースで売れたという。子供家庭用品課の浦島行子係長は「ありがたいことに、『最後に藤丸さんで買いたい』という多くのお客さまにお越しいただいた」と感謝した。
◇涙をこらえ笑顔常連客との別れ
1階ジュエリー売り場「ヴァンドーム青山」では、この4月で勤続30年になる長谷川睦美さん(58)が常連客との別れを惜しみながら接客に当たった。
帯広市の天野里美さん(54)は長谷川さんへのあいさつを兼ねて来店し、淡水パールのピアスを購入。「仕事のご褒美や節目にはいつもここでアクセサリーを購入していた。本当に寂しい」。長谷川さんは「お客さんと話すと涙が出てきてしまいますが、最後まで笑顔で接客したい」と寂しさを振り払った。
◇思い込め「国稀」1000本
1階正面玄関入り口では、この日のレシートを持参した買い物客先着1000人に、国稀酒造(留萌管内増毛町)から寄贈を受けた「国稀」の文字入りの清酒(180ミリリットル)を贈呈した。
開店直後から早々に買い物を済ませた客が行列をつくり、従業員が「お世話になりました」「また会いましょうね」と声を掛け、一人ひとりに手渡した。
帯広市の門馬正さん(68)は「思い出に小説を買った。いつもは図書館で借りているけど、最後なのでね」と記念の買い物をして清酒を受け取っていた。午前11時24分に1000本目の配布を終えた。
■31日午後6時半から藤丸の閉店セレモニーの様子を電子版で生中継する。勝毎電子版トップページと特設ページで閲覧できる。