イベント開催は「迷惑」? 苦悩の主催者、それでも「開催」する思い
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、十勝でもイベント中止が相次ぐ中、あえて「開催」を選ぶ人たちもいる。安全への責任感とイベントへの思い。先行きが見えぬ中で葛藤しながら、感染予防にも全力を挙げている。
「外で人とのつながりを持つことで、心に余裕が生まれる」
イベントの意義をこう強調するのは、帯広市の矢田部幸永さん(28)。市内の広小路商店街の多目的スペースで週2、3回のペースで地域住民との交流イベントを企画し、商店街ににぎわいを呼び戻している。
道の緊急事態宣言後は予定していた3分の2が白紙になったが、8日はフリーマーケット、11日はボードゲーム大会を開催。参加者にはうがいと手洗いの徹底を呼び掛け、店内には除菌効果のある次亜塩素酸水を入れた加湿器を用意した。
「生活の柱に」
「イベントを自粛すべき」という世間の空気は感じる。SNS(インターネット交流サイト)やはがきで、知らない人からイベント自粛を求められたこともあった。
だが、イベント収入が生活の柱でもある矢田部さんにとって、「それは死ねと言われるようなもの」。新型コロナウイルスをめぐっては、各地でクラスター(小規模な感染集団)が確認されているが、「コンビニや会社など、感染する可能性はどこにでもあり、私がやめたからといって危険性がなくなるわけではない。イベントを自粛するより、きちんと予防対策をした上で、今できる形でやりたい」と話す。
「今しかない」
一方、「今しかタイミングがない」と開催を決めた人も。シンガー・ソングライターとしてメジャーデビューの夢を抱き、春に関東に進学する音更緑南中3年の的場小乃実さんは21日、市内のミュージックバーで「卒業ライブ」を開く。
小学6年から市内のボーカル教室に通い、インターネットで資金を募ってオリジナルCDを制作するなど精力的に活動してきた。
中学校で臨時休校が続く中、開催していいのか葛藤する日々だが、「十勝での最後のライブにかける思いは大きい。シンガーとして身を削って作った歌をみんなに伝えたい」との強い思いを抱く。当日の来場者は20~30人を見込み、会場には消毒液を置き、小まめに換気するほか、出演者は歌う時以外はマスクを着用する。
ボーカル教室で的場さんを4年間指導した菅野真嘉さん(37)は「この1年で作曲と作詞を手掛けるようになり、イベントでも引っ張りだこになるほど大きく成長した。卒業ライブは今を逃すと一生できない。後悔しないためにも、多少のリスクを背負っても歌わせてあげたい」と語る。(高田晃太郎)