感動呼ぶ紙芝居 国内初、鹿追で特養入所者の人生劇場
【鹿追】町内の特別養護老人ホーム「しゃくなげ荘」(山本進施設長)で27日、入所者のお年寄り2人の戦争体験などをプロの女性紙芝居師・三橋(みはし)とらさん(32)=東京=が作品にまとめた「人生劇場紙芝居」の公演が行われ、施設入所者と家族や職員、管内の高校生ら約100人が鑑賞した。岩手県立大などが協力した国内初の参加型ナラティブ(物語)ケア実践研究事業として昨年6月に開始、戦争の惨禍を生き抜き、平和な鹿追の施設で最期の時を迎えたいと希望する2人の人生を各約30分の紙芝居にした三橋さんの熱演が、大きな感動を呼んだ。
山本施設長と親交のあるまちづくりプランナー橘宜孝さん(広島市)をコーディネーターに、倉原宗孝岩手県立大教授が監修、公益財団法人日本社会福祉弘済会の助成で実施した。橘さんは「お年寄りの人生を目と耳で若い方々にも感じてもらうには紙芝居が有用では」と、紙芝居師として活躍する三橋さんと共に、サハリン(旧樺太)から引き揚げ体験がある入所者の東原(ひがしはら)美枝子さん(90)、旧満州(中国東北部)から引き揚げた川崎時治(ときじ)さん(87)から3回の聞き取りを重ねて作品にした。
公演は同荘の食堂で行われた。まず東原さんの「美枝子さんの生涯~樺太からの引き揚げ」では、樺太に生まれ、家族と幸せに暮らしていた人生が終戦で一変、終戦後の1945年8月22日に引き揚げ船に乗船中、潜水艦の魚雷攻撃を受けた物語を演じた。乗客が満員で東原さんが乗れずに先に行った泰東丸が沈み、さらに襲う恐怖は「まるでサンマがサメに襲われるようだった」。東原さんが乗った船は沈没を免れ、帰国できた。
川崎さんの「時治さんの生涯~満州からの引き揚げ」では、和歌山県出身の川崎さんが高等小学校卒業後に満蒙開拓青少年義勇兵として満州に開拓に入り、終戦で侵攻してきたソ連軍に捕まりながら逃げ、中国人の夫妻に助けられて帰国につながった話を描いた。
公演を客席の最前列で見守った東原さんは「(紙芝居は私の実話と)合っていた。ありがとうございます」。川崎さんは「同じ人間同士、(他国とは)争わずに仲良くすることです」と強調した。
公演を取材に訪れた上士幌高校新聞局副局長の木村凌也君(2年)と局員の早坂柊咲君(1年)は「体験した方の話は重い」「こういう話を大切にしなければ」。監修した倉原教授は「(特養という)人生の集大成の場所で、若い方々と(物語を)共有できることが大事。こういう場を広げていきたい」と話していた。(横田光俊)