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【WSJ】セブンイレブンを欲しがる理由

太平洋を挟んで買収合戦が繰り広げられる背景には何が
 米国でセブン―イレブンと言えば、「スラーピー」なしに語れない。

 高フルクトース・コーンシロップ(異性化糖)に香料と炭酸水を混ぜたレインボー色の飲料(完全な液体でも固体でもないフローズンドリンク)はコンビニエンスストアの定番商品だ。手軽さと甘さ、カラフルさ、1~2ドル(約154~308円)程度の安さが受けている。

 スラーピーは一大ビジネスでもある。このドリンクの元祖(1960年代に「アイシー」として発売し、後にスラーピーと改名)を生み出したセブン―イレブンでは2023年の販売数が1億5300万杯に達し、800億ドル規模のコンビニ帝国を支える土台となっている。セブン&アイ・ホールディングス(本社・東京)の傘下にあるセブン―イレブンは、世界19カ国で8万5000店舗を展開している。24時間営業の照明の下に陳列される商品の幅広さもそれに負けていない。ポテトチップスや漂白剤、たばこ、サングラス、パワーステアリング専用のオイルなど、何でも置いている。

 セブン―イレブンはその店頭に置かれた飲料ディスペンサーやローラー式機械で提供されるホットドッグのおかげで文化的アイコンと化し、米ロック歌手ブルース・スプリングスティーンやロックバンドのグリーン・デイの歌詞に引用されたほか、テレビアニメ「ザ・シンプソンズ」で風刺されたり、ゲームシリーズ「グランド・セフト・オート」に描かれたりしている。2013年のアニメ映画「スペースガーディアン」では、平和の証としてスラーピーが宇宙人に贈られる。

 現在このチェーンを巡り、二大陸にまたがる買い手が巨額の買収合戦を繰り広げている。「サークルK」などのコンビニチェーンを傘下に持つカナダ企業アリマンタシォン・クシュタール(ACT)は、470億ドル(約7兆2400億円)で買収提案を行っている。

 セブン&アイはACTが示した当初の提案を拒否した。その案はACTの既存チェーンのブランドを強化し、国際的な事業拡大を後押しする狙いがあった。今月に入ってセブン&アイの創業家からこれに対抗するさらに高額な買収提案を受けた。セブン―イレブンというブランドを引き続き日本で管理し、同チェーンの人気商品であるおにぎりなど地元好みの商品に外国人が手を加えるのを防ごうとしている。

 セブン―イレブンは約100年前に米国で誕生した。1990年代に日本企業に買収され、最先端の在庫管理と物流システムを駆使して世界最大のコンビニ小売業者に成長した。緑とオレンジの特徴的な看板はどこに行っても目立つが、その成功の核心は、地域に魅力的な形で特化した店舗にある。例えば、日本ではおにぎり、米中部大西洋岸ならオールドベイ・チキンサンドイッチがこれに当てはまる。

 典型的なセブン―イレブンの約280平方メートルの店内は、ごちゃ混ぜの商品をぎっしり並べたように見えるかもしれないが、約3000種類の商品は詳細なデータに基づいて厳選されたもので、各店舗が地域の習慣や好みに合わせて品ぞろえを調整できるようになっている。

 また、セブン&アイがフレッシュフード販売で培った経験を生かし、セブン―イレブンは食品小売りの分野で米国流の驚くほど収益性の高い「ダッシュボードダイニング」という領域も開拓している。この用語は、骨なしチキンウイングや、タコ・チーズ・タキート、ホットドッグといった片手で食べられる安価な食品を指し、テイクアウトに適した商品だ。これらは小売業の「金脈」になり得ると、買い手は考えている。

 だが、インフレによってコンビニ業界の主力顧客である低中所得層が苦境に追いやられ、セブン―イレブンもその影響を免れなかった(同社は売上高の大半を日本以外で稼いでいる)。ACTが8月に当初提案を行うまでの12カ月間に、セブン&アイ株は13%値下がりしていた。10月には2025年2月期の通期利益予想を40%余り引き下げ、1630億円とした。インフレによる需要低迷を理由に挙げた。

 ここにACTは買収機会を見いだした。もし合意できれば、合併後の会社はその規模を生かし、サプライヤーへの影響力を強めたり、店舗配送を統合したりしてコストを削減できるだろう。

カナダ発のコンビニ企業
 セブン―イレブンは長年にわたり、食品の品ぞろえの強化に取り組んできた。同社の戦略は、特にアジアで成功を収めている。日本に次ぐ店舗数2位の国タイでは、タイ風チキンカレーなど伝統的なタイ料理を幅広く取りそろえている。

 一方、太平洋の向こう側では、カナダのケベック州に本拠を置くACTが、20年近く前からセブン―イレブンに強い関心を寄せてきた。

 1980年にモントリオール郊外のコンビニ1店舗から始まり、カナダ、北欧、ドイツ、香港、米国など、世界31カ国で1万6800店舗を展開するまでに成長した。

 ACTの創業者で会長のアラン・ブシャール氏は、仏エネルギー大手トタルエナジーズの欧州小売り部門や米石油大手コノコフィリップスの傘下だったサークルKなどを買収し、会社を成長させてきた。

 ブシャール氏は2000年代初め、非公式にセブン&アイの経営陣に接触し、買収に興味があるかと打診したが、断られた。カナダ人ジャーナリスト、ギー・ジャンドロン氏が2016年に出版したブシャール氏の公認の伝記で明かされている。

 ACTは燃料・たばこ販売からの多角化を図り、フレッシュフード販売の比率を高める意向だ。スタイフェルの調査報告書によると、フレッシュフードは同社の売上高の12%を占める。一方、セブン―イレブンは日本での売上高の約3分の1を生鮮食品が占めている。

 ACTの広報担当者は「両社が一緒に成長し、世界中の大勢の顧客に提供する商品やサービスを強化するための絶好の機会だと、引き続き考えている」と述べた。「必要な資金を調達し、統合を完了させる能力にも依然として自信がある」

 米国はACTにとって最大の市場であり、サークルKのブランドで7100店舗以上を運営する。これは米国で約1万3000店舗を展開するセブン―イレブンに次ぐ規模だ。

 ACTは今夏、セブン&アイに対し390億ドルの買収提案を示した。セブン&アイ側はこれを拒否し、自社の価値を「著しく過小評価している」と指摘した。

 その後、ACTは買収額を約470億ドルに引き上げたが、セブン&アイはなお抵抗している。ACTのアレックス・ミラー最高経営責任者(CEO)とブシャール会長は10月に東京を訪れたが、セブン&アイ幹部との面会は実現しなかった。

 先月、セブン&アイの井阪隆一社長は「今後も大きなグローバル成長の可能性を秘めている」と述べ、2030年度にグループ売上高をほぼ倍増の30兆円以上にする目標を示した。スーパーマーケットなど非中核事業の分離(スピンオフ)を含む再編計画も発表した。

 先週、セブン&アイ創業者の故伊藤雅俊氏の次男で、副社長を務める伊藤順朗氏が、同社の非公開化に向けた買収提案を行った。これらの提案を検討するために設置された特別委員会を率いる取締役会議長スティーブン・ヘイズ・デイカス氏は、同委員会が「全ての選択肢を客観的に検討する」と述べた。

 セブン&アイが今後採るべき道を決断するよう迫る圧力は高まっている。セブン―イレブン幹部は10月、インフレ疲れで客足が遠のく中、北米で約450店舗を閉鎖してコスト削減を図ることを明らかにした。同社によると、たばこの売上高は2019年以降26%減少し、80年ぶりの低さとなっている。

 過去1年間、セブン―イレブンは一部のプライベートブランド(PB)食品の改善に取り組み、カプチーノやラテのようなスペシャリティ飲料の販売に活路を見いだそうとしている。これはガソリン・たばこ販売からの多角化に役立つ可能性がある。

 買収合戦における文化的な違いは、単なるおにぎり対スラーピーにとどまらず、大型買収がもたらす重大な影響に関係していると、大和総研のコンサルタント、吉川英徳氏は言う。

 吉川氏によると、米国では「取締役会の義務として1円でも高い方へ売ることを努力すべき」だと考える。一方、日本企業は「株主利益というよりは、共同体がどうあるべきか、みたいなところに最初の着目点がいってしまう」という。(2024年11月25日付、By Patrick Thomas, Vipal Monga and Miho Inada)


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