病気に強くて作りやすい 小豆新品種「十育170号」
道総研 十勝農業試験場 研究部 豆類畑作グループ
道総研 中央農業試験場 作物開発部 生物工学グループ
道総研 上川農業試験場 研究部 生産技術グループ
道総研 北見農業試験場 研究部 麦類畑作グループ
1.背景
北海道産小豆は国内生産量の9割以上を占め、実需者からは安定供給が求められている。安定生産を脅かす要因として土壌病害があり、薬剤防除による被害軽減が困難なことから、主に抵抗性品種の栽培により減収を回避している。
重要土壌病害の一つで最も被害の大きい茎疫病は、上川や空知北部など比較的温暖な地域の水田転換畑等で多発している。茎疫病抵抗性を持たない「きたのおとめ」等の品種での被害はもとより、近年では既存の抵抗性品種においても罹病する“レース4”による被害が増加している。また、落葉病に対しては、落葉病(レース1)抵抗性品種が小豆栽培面積の6割以上を占めるまでに普及しているが、落葉病の多発年にはこれら抵抗性品種が罹病する“レース2”による被害が散見される。このため、生産現場からは茎疫病(レース4)及び落葉病(レース2)抵抗性の品種が強く要望されている。
2.育成経過
「十育170号」は、落葉病(レース1,2)、茎疫病(レース1,3,4)、萎凋病に対し抵抗性を持つ中生の「十系1008号」を母、落葉病(レース1)、茎疫病(レース1)、萎凋病抵抗性で成熟期“やや早”の「きたろまん」を父として人工交配を行い、以降、選抜・固定して育成した系統である。F4世代では中央農業試験場においてDNA マーカー(Pga2:落葉病(レース1,2)抵抗性の有無を判別するDNA マーカー)による選抜を実施した。F5世代では上川農業試験場において茎疫病抵抗性により選抜し、F6~F7世代では引き続き茎疫病抵抗性検定試験に供試し、抵抗性を確認し選抜した。F8世代以降「十育170号」の地方番号を付して各種の試験を実施した。
3.特性の概要
「十育170号」は、対照品種「きたのおとめ」及び「エリモ167」と比べて、成熟期は同等で、倒伏程度は両品種より小さい。子実重は両品種と同等からやや優り、百粒重、外観品質は両対照品種とおおむね同等である。落葉病(レース1,2)、茎疫病(レース1,3,4)、萎凋病に抵抗性を持ち、低温抵抗性は“中”である。子実の長さ/ 幅は、「きたのおとめ」の“やや小”、「エリモ167」の“中”に対し、“やや大”に分類される。子実の地色は両対照品種と同じ“赤”である。製あん・和菓子加工業者による製品試作試験における加工適性は「きたのおとめ」と同等である。
4.普及態度
茎疫病(レース4)、落葉病(レース2)による被害発生地域の「きたのおとめ」、「エリモ167」に置き換えて普及することで安定栽培が可能となり、北海道における小豆の生産振興に寄与できる。
1)普及見込み地帯: 全道の小豆栽培地帯のうち、早・中生種栽培地帯(II)、中生種栽培地帯(III)、中・晩生種栽培地帯(IV)及びこれに準ずる地帯の茎疫病、落葉病の被害が発生する地域
2)普及見込み面積:500ha
3)栽培上の注意事項:落葉病、茎疫病、萎凋病に抵抗性を持つが、栽培に当たっては適正な輪作を守る。
この成績の一部は、イノベーション創出強化研究推進事業の助成を受けて実施した。
本技術内容についての問い合わせ先
道総研十勝農業試験場 豆類畑作グループ
電話(0155)62-2431
E-mail:tokachi-agri@hro.or.jp