感染シミュレーションモデルを活用した 牛白血病ウイルス清浄化の進め方
道総研 畜産試験場 基盤研究部 家畜衛生グループ
1.試験のねらい
牛白血病ウイルスの感染源としてリスクが高い牛(ハイリスク牛)の血中ウイルス量の基準値を提示し、ウイルス感染が乳牛の生産性に及ぼす影響と経済的損失を明示する。ウイルス感染シミュレーションモデルを作出しウイルス対策効果を評価する。さらにウイルス清浄化実証農場において陽性率を低減する。
2.試験の方法
(1)畜試実験牛群における持続性リンパ球増多症(PL)牛から非感染牛へのウイルス伝播の有無と伝播距離を検証し、PL牛をハイリスク牛とした時の血中ウイルス量を提示する。
(2)乳牛のべ約1,000頭の血中ウイルス量、乳検データ(n=1,033)、出荷時枝肉重量(n=222)を解析し、ウイルス感染が酪農場に及ぼす経済損失を明らかにする。
(3)シミュレーションモデルを作出し、酪農場の飼養形態、頭数、年齢、産次数、ウイルス感染の有無、血中ウイルス量、ウイルス対策などのデータを入力し、農場における感染牛頭数の推移を予測し、対策効果を評価する。
(4)ウイルス清浄化実証農場(A , B , C , D)において陽性率の半減を目指す。
3.成果の概要
(1)PL 牛から水平距離6m 離れた牛にサシバエを介したウイルス伝播が起こり、タイストール牛床2頭分約3m の空隙ではウイルス伝播を完全に阻止できない。ハイリスク牛の基準値は血中ウイルス量2,500コピー/50ng DN Aまたは57,000コピー/10万細胞とする。
(2)ハイリスク牛は非感染牛より乳房炎に早く罹患し(図1、ハザード比2.01倍、P <0.01)、乳量損失額は1頭あたり約2万円と試算される。と畜場に搬入されたハイリスク牛の枝肉重量は249.3kg で非感染牛280.2kgより少なく(P <0.01)、1頭あたり約17,000円の損失と試算される。
(3)シミュレーションモデルへのデータ入力は、牛の頭数・月齢・ウイルス感染状況などで、牛舎形態、育成牛の預託の有無、計画的淘汰も考慮可能とする。吸血昆虫や垂直感染など感染原因ごとのウイルス感染、分娩、売却、外部導入、牛舎間移動をシミュレーションし、感染牛頭数の推移を図示できる。対策を選択して感染牛頭数を比較することで対策効果が評価でき(図2)、生産者を含む関係者間で客観的な対策の検討が
可能になる。
(4)A農場では感染牛の計画的淘汰とハイリスク牛の優先的淘汰を継続し、陽性率は7年間で42.0%から20.7%に減少した。C農場では吸血昆虫対策を継続し、感染牛の計画的淘汰はなかったが、周産期疾病などで淘汰された牛に感染牛が含まれており、陽性率は6年間で52.1%から21.2%に減少した(表1)。
4.留意点
(1)獣医師や普及指導員などが酪農場において牛白血病ウイルス陽性率を低減するため、シミュレーションモデルを活用し農場の実情にあわせた対策を実施しながら農場経営に支障なく清浄化を推進する。
(2)感染シミュレーションモデルはフリー統計ソフトRのパッケージとしてインターネット上で配布し、モデルの著作権は酪農学園大学にある。
詳しい内容については、次にお問い合わせ下さい。
道総研畜産試験場 基盤研究部 家畜衛生グループ 小原 潤子
電話(0156)64-0615 FAX(0156)64-5349
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